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旅の「危険度」とは何か?(下) 「一般治安」と「特殊治安」の違いに注意しよう



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(上からのつづき)

 (上)では外務省の海外渡航情報(http://www.anzen.mofa.go.jp/)について、具体事例をいくつか取り上げてみたが、(下)では私なりの危険度の「読み方」について述べてみたい。

 私は大きく分けて、治安には2種類あると考えている。仮に「一般治安」と「特殊治安」と呼ぼう。

 「一般治安」とは、スリや置き引き、強盗や殺人などの一般的な犯罪の多寡のこと。ガイドブックにはよく、「夜は出歩かないように」とか「駅の周辺には近づかない」などと書かれているが、これは「一般治安」についての注意といえる。

 これに対して「特殊治安」とは、テロの危険性や内戦状態、あるいは大規模災害などに起因する一時的な情勢の悪化だ。ニュース性があって目立つのはこちらだ。

 たとえばグアテマラ、およびエジプトの両国は、全土に危険度(1)が出ている。では同程度の治安の悪さなのかといえば、そうではない。

 グアテマラは私自身も強盗に遭ってしまった国だが、殺人や強盗などの犯罪が多発しており、夜間の外出は厳禁だ。つまり「一般治安」が非常に悪い。

 一方エジプトは、観光客が多い国であるが、日暮れ過ぎに歩いていても、それほど危険を感じることはない。突然強盗に襲われるような可能性は低い。では、なぜ(1)が出されているのかといえば、たびたび過激派によるテロ事件が発生しているからだ。「一般治安」は良い国だが、「特殊治安」が悪い。

 むろん、「一般治安」と「特殊治安」は決して無関係ではない。「特殊治安」の悪さが、「一般治安」の悪化につながることも多い。ただ、ここで留意したいのは、「一般治安」が悪いだけの場合、危険度はたいてい、(1)止まりであるということだ。

 最たる例が、南アフリカだ。ヨハネスブルグは、市民の日常生活が普通に行われている都市としては世界で一番治安が悪いといわれ、昼間でも殺人や強盗などの犯罪が絶えない。外務省のホームページにも、「南アフリカは世界でも有数の犯罪発生率の高い国」と書かれている。しかし危険度は(1)だ。

 大規模なテロ事件の危険性があるわけではなく、内戦状態に置かれているわけでもない。つまり「特殊治安」にはさほど問題がないから、危険度が(2)以上にはならないのだろう。

 しかし、たとえば先述した危険度(3)のチベットと比較して、旅行者が単独で訪れて被害に遭う確率はどちらが高いかと問われれば、おそらく南アフリカだ。

 外務省の立場として、「特殊治安」を重視して渡航情報を発するのは当然のことともいえる。これは、旅行者だけを対象に発信されているわけではなく、企業の駐在員や出張者、留学生など、より広範囲な海外渡航者を対象にしているからだ。

 後者にとって重大なのは「特殊治安」だ。たとえば海外に拠点を置く企業にとって、テロによって社会的インフラが破壊されれば大きなダメージを受けるし、組織的な誘拐などは社員が標的になる可能性もある。

 逆に「一般治安」はある程度対応が可能だ。どんな国にも必ず治安の良い高級住宅街があり、移動も専用の車を手配できる。日常の買い物も、富裕層向けのショッピングセンターがある。

 また、同じ旅行者でも、パッケージツアーの参加者の場合、同様のことがいえる。滞在は安全なホテル、移動は団体バスでガイド付き。窃盗や強盗などの一般犯罪に巻き込まれる可能性はぐっと低い。南アフリカでは大都市のタウンシップ(いわゆるスラム)を訪れるツアーすら存在するほどだ。

 だが、バックパッカーなど個人の旅行者にとって、より気をつけるべきは「一般治安」だ。安価なホテルはたいてい治安のよくない場所にあるし、駅やバスターミナル、市場や旧市街など、観光の拠点となる場所も、同様だ。

 爆破テロや暴動のような「派手」な事件は起こらなくても、殺人や強姦などの凶悪犯罪が「身近」に多発し、非常に雰囲気が悪いという地域は、世界中にいくらでもある。いちいち報道されないだけだ。

 外務省が発表する渡航情報は大いに参考になる。ほぼ毎日更新されているし、最も信頼できる情報源の一つである。しかし以上述べたように、4段階に数値化された情報だけを鵜呑みにして決めつけるのは、むしろ危険だ。

 何事もそうだが、溢れる情報に流されず、自分の目と、自分の足で体験しつつ、理解し、判断したい。それが、私が思う旅の自己責任であり、かつ旅行の醍醐味でもある。

(了)
(2008年7月30日掲載)

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