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このままでは日本の国際競争力は衰退する 先日「旅をしない若者たち」という記事で、若い世代の海外旅行者数が減っている現状を紹介し、多くの反響をいただいた。今回はその続編である。昨今の若者たちが、単に旅行についてだけではなく、就労の面でも、海外を敬遠する傾向が見られるという現状について、考察したい。 下記のグラフは、産業能率大学による「新入社員のグローバル意識調査」を元に作成したものである。2001年、04年、07年と、3年ごとに行われた調査の結果を並べてみた。 まず表1は、「海外で働きたいか」という設問であるが、各年度とも回答数がもっとも多いのは、「国、地域によっては働きたい」であり、全体のおよそ半数を占める。具体的な国名が挙げられているわけではないが、先進国なら行きたいが途上国は嫌だと、そう考えている新入社員の多いことが予想される。 一方「どんなところでも」という頼もしい回答は2割前後と少なく、「働きたくない」と拒否する姿勢を示しているのは3割にのぼる。しかも「働きたくない」は、01年および04年に比べ、07年は増加していることが分かる。 もっとも、調査事例が少ないこともあり、この結果だけを見て若者が海外を敬遠していると断じるのは、いささか乱暴かもしれない。「どんなところでも」という答えは、01年から04年にかけて上昇しており、07年に反転したのは、たまたまであるのかもしれない。 参考までに日本経済新聞による08年度の「学生就職人気ランキング」(表2)を見てみると、1位は航空会社の全日空であり、ほか上位にはトヨタ、松下、ソニーなど、押しも押されもせぬ国際的な企業が名を連ねている。 海外旅行に出掛ける若者は減っているが、就労意識としては、やはりグローバル志向があるのだろうと、そのようにも考えられる。 昔はなかなか行けないからこそあこがれがあった しかし、表3の「海外赴任を命じられたらどうするか」という、より具体感のある設問になると、傾向がはっきりしてくる。「喜んで従う」、「仕方なく従う」がともに減少しているのに対し、「できるだけ拒否する」と答えた割合は、01年の17%から04年の22%を経て、07年は31%へと、明らかに増加しているのだ。07年においては、「できるだけ拒否」が「喜んで従う」を上回ってさえいる。 私は先の記事の中で、「海外そのものに興味がないわけではないが、いざ自分が行くのは面倒臭い」という表現を用いたが、そのとおり。国際的な仕事に興味はあるけれど、言葉が通じず友人もいない外国に1人で赴任していくのは嫌だとでも言いたげな、挑戦心や冒険心に欠ける傾向が、透けて見えてきはしないだろうか。 長く商社勤めをしていた50代の知人男性が、こう教えてくれた。 「私も学生時代、バックパッカーとして海外を回った。そして1975年に迷わず商社に入社した。以降、海外への出張や駐在を楽しく経験した。当時はほとんどの社員が海外志向で、留学や駐在を希望する者が多かったように記憶している」 学生時代に海外旅行に慣れ親しみ、それがきっかけで海外とかかわる仕事を希望するようになったという人は多いだろう。逆に言えば、自由な時間がある学生のうちにそういった経験がないと、英語が苦手だからダメだとか、治安が悪そうで怖いとか、海外を敷居が高いものとして考えてしまうのかもしれない。 しかし、いくら最近の若者は旅をしないからといって、それは格安航空券が一般化した90年代と比較しての話であって、それ以前の20年前や30年前に比べると、けた違いに増えている。昔はなかなか行けないからこそ、あこがれがあった。今は当たり前のように誰もが行けるからこそ、魅力を感じないのであろうか。 子離れができない親の世代に問題!? 同じ男性は、こんな話も披露してくれた。 「ところが、最近では商社マンといえども海外を敬遠する若い人が多くなっている。海外出張も場所によっては行きたがらない。さらに、せっかく商社に入社しながら、駐在や出張の機会が少ない人事や経理などの部署を希望する社員も増えているようだ」 私はアラブ地域を旅行していた際、卒業旅行だという男子学生と出会ったが、彼は商社に就職が決まっていると言い、「たぶん数年後には駐在でまたこのへんに戻ってきますよ」と笑って話していた。また、グアテマラでは、マスコミに就職が決まっており、語学を学ぶために来たと話す女子学生と遭遇した。どちらも一人旅であった(関連記事「キリストの生まれた町、パレスチナの国」、「古都アンティグアの憂鬱な日々」)。 彼や彼女は、少数派だったのだろうか。 あるいは、彼らのような意欲のある若者を、「いい経験だ、行ってこい」と送り出す親が、減っているのだろうか。 最近の若者は自立ができない、精神年齢が低くなっている、とよく論じられることがあるが、その原因は若者だけにあるのではない。むしろ、「かわいい子には旅をさせず」子離れができない親の世代、社会の風潮にこそあるのではないだろうか。 もちろん、旅行に行く、行かないは自由である。どんな職業を選択するかも、当然自由である。しかし、子供の理系離れが技術立国日本の将来に向けて懸念されているのと同等に、若者の旅行離れもまた、海外勤務を敬遠する若手社員の増加という形で、現実にはね返ってきているのである。この傾向がこのまま進展すれば、いずれ日本の国際競争力は、惨めなまでに衰退していくだろう。 若者よ、旅に出よう。社会はこれを応援しよう。私は声を大にして言いたいのである。 読んでくださったみなさま(特に20代の方々)へ 前回同様、みなさまの御意見を歓迎いたします。コメント欄にお寄せいただければ幸いです。 (2008年3月7日掲載)
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