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「ノー」と言える自立した外交方針の確立を 安倍政権が掲げる最大の目標は「戦後レジームの脱却」である。教育基本法改正然り、防衛庁の省昇格然り、ことあるごとに安倍首相自身の口から「戦後レジームの脱却」という言葉が発せられている。その総仕上げが憲法改正であり、そのための国民投票法案が5月14日に成立した。 「戦後レジームからの脱却」とは言いえて妙であるが、つまりは、アメリカへの従属をやめ、対等な関係になるということである。旧教育基本法も現行憲法も、アメリカの占領下に制定された。だから自主的なものに改正するのだという論拠は、それなりに筋が通っている。 しかし、ここで大きな矛盾となって持ち上がってくるのは、イラク戦争に対する対応である。時の小泉政権は、日米同盟を全面に掲げ、アメリカの戦争を支持し、自衛隊を派遣した。当時これに賛成する側のマスコミも、アメリカに従うのが国益だとする論調が支配的だった。 小泉政権を継承する安倍政権は、この「アメリカに従うのが国益」という点をいかに考えるのか。 イラクでは、連日のようにテロがあり、死傷者が増え続ける一方の悲惨な状況である。どう考えてみても、イラクの人々が幸せになったとは言えず、イラク戦争は明らかに愚行であった。 奇しくも、国民投票法案が成立した5月14日、イラクへの自衛隊派遣を延長するための、イラク特措法が衆議院を通過した。 安倍政権に問いたいのは、これ以上アメリカに仁義を切って、イラク特措法を延長し、アメリカのイラク政策に追随する必要があるのですか、ということだ。 久間防衛相や麻生外相が、アメリカ批判を繰り返したときには変化を感じたが(参考記事:「久間防衛大臣のイラク戦争批判が意味するもの」)、先日の安倍首相のアメリカ訪問の際では、完全に腰が引けてしまいイラク政策を見直す気運につながらなかった。 靖国神社の遊就館の展示や、従軍慰安婦問題を巡って、日米の意見の相違がしばしば表面化している。北朝鮮問題においても、拉致問題を抱える日本を袖にして、アメリカは北朝鮮との関係修復に向かう素振りを見せた。 60年前にアメリカが作った憲法に、安倍政権が「ノー」と言えるのなら、現在のアメリカの対日政策にも堂々「ノー」と言って然るべきではないだろうか。それこそ「戦後レジームの脱却」であり、その上で自主憲法を制定するというのであれば説得力がある。 『アッラーは偉大なり、ムスリム青年と語った夜』で触れたように、欧米に対する対抗意識の強いアラブ諸国において、欧米とは異なる文化圏にありながら、世界有数の経済大国となった日本に対する評価が、驚くほど高い。第2次世界大戦で、アメリカやイギリスと日本が戦ったことすら、彼らにとっては尊敬の対象だ。 「オーマイニュース」においても、鳥越編集長と小林よしのり氏との対談(戦争論、日米論・防衛論)のなかで議論がなされている。 世界最強のアメリカに対して、安倍政権が臆せずモノが言えるかということである。独立国として、アメリカにも、もちろん中国にも、遠慮せずに日本の外交政策を展開していく矜持があるかということだ。 自主憲法を旗印に、アメリカの戦争に乗っかり続けるのであれば、私は全く賛成できない。 自主的な軍事力である自衛隊をイラクから撤退し、その上で、本当に自立した憲法改正を目指そうではないか。 (2007年5月23日掲載)
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