表紙へ戻る
 



日本とチベット、友好の架け橋

 仮面舞踏に砂曼荼羅、国を失った彼らにわれわれができること




オーマイニュース掲載版はこちら

 4月29日から5月6日までゴールデンウイークの8日間、東京・文京区の護国寺で「チベットスピリチュアルフェスティバル2007」が開催された。その最終日の模様をお伝えする。

 フェスティバルという呼び名からは、気軽な民間イベントのような響きがあるが、主催はダライ・ラマ法王日本代表部事務所。北インドのダラムサラーにあるチベット亡命政府の正式な出先機関であり、いわば大使館のような存在だ。はるばる南インドのチベット寺から10名の亡命チベット人僧侶が来訪し、仮面舞踏や砂曼陀羅(すなまんだら)といったチベット仏教の重要な儀式を執り行うという、実に本格的な宗教行事でもあった。

 最終日の6日はあいにくの雨。しかし、都心とは思えないほど広々とした敷地に、傘を差した大勢の人が集まってきていた。江戸幕府五代将軍の徳川綱吉が建立した護国寺。境内には5色の旗が飾られ、あずき色の袈裟(けさ)を着たチベット人僧侶の姿を見かけることができた。

 最大の見どころは、本堂にて開帳される砂曼陀羅。曼陀羅といえば仏教の宇宙観を表現した緻密(ちみつ)な画であるが、砂曼陀羅はそれを砂で描く。もっと落ち着いた地味な色合いをしているのかと思いきや、青や緑、黄色に赤と、予想以上に鮮やかな色彩であった。開会とともに作り始め、灌頂(かんじょう)と呼ばれる仏様との縁を結ぶ儀式に用いられたのだが、閉会に際してはあっさりと壊し、再び砂に戻してしまうものだ。

「砂は江戸川橋で川に流すのですが、その一部はみなさまにもお分けできるんですよ」若い尼僧さんがそう教えてくれた。

 さらに、「赤ちゃんが来てくれるのはとてもうれしいことです」と、2月に生まれたばかりの息子の腕に、黄色いひもを巻いてくださった。聞けば、ダライ・ラマ法王に加持していただいたものだという。なんともったいない!

 砂曼陀羅の開帳は昼で締め切られ、午後はチャムと呼ばれる仮面舞踏が披露された。本堂正面の舞台で、獅子やがいこつの仮面をつけた僧侶たちが踊るのだが、それぞれが菩薩(ぼさつ)や仙人を表し、厄よけと幸福を願う、チベット式・大みそかの儀式なのだという。

 あいにくの雨は強まるばかりであったが、年配者も家族連れもいて、境内は大混雑だった。服装や、聞こえてくる会話から察するに、チベットに興味があるか、あるいは北インドやネパールまでを含めたチベット文化圏を訪れた経験のある若者たちが、わりと多いようにも思えた。

 1時間ほどで仮面舞踏が終了すると、いよいよ砂曼陀羅を壊す「破壇(はだん)の儀」である。当初本堂の定員は350人との案内があったが、主催者側の予想を上回る人出だったようで、参列者が座る場所を詰め、さらに入りきらない人のために、障子窓や木戸が外され、外側の回廊からも中の様子が見えるようにと、臨機応変の措置がとられた。

 閉幕に際しては、日本側からは護国寺の住職や執事長が、チベット側からは儀式を取り仕切った高僧や日本代表部の代表が、それぞれ交互にあいさつを行った。

護国寺住職の岡本氏

「真言密教とチベット密教の御縁ということもあり、当寺でこのような素晴らしい法要を行うことができました。日本の寺は門を閉じているという批判がございますが、このように大勢の人々に仏教のゆっくりした心に触れていただく機会を持てたということは、喜ばしいことです」

チベットで最も尊敬される高僧の1人、チャド・リンポチェ氏

「このような由緒あるお寺で砂曼陀羅の儀を行うことができて、とても感謝しております。砂曼陀羅は実は7世紀くらいに日本で行われていたといわれ、チベットでは1世紀遅れて8世紀に始まったといわれています。さまざまな条件がそろわないと、このような行事はできません。インドから来て、参加できて、非常にうれしいです」

日本代表部事務所代表、チョペ・ペルジョル・ツェリン氏

「日本ではゴールデンウイークですが、私たちにとっても本当に『黄金の1週間』となりました。日本に来て4年半になりますが、最高のときです」

 日本でチベット問題が大きく報じられることはあまりない。しかし、伊藤佳利子記者の『インドでチベット人のデモを見た』でも伝えられたように、中国の支配下におかれたチベットは存亡の苦況にある。時間の都合でじっくり見ることはできなかったが、本イベントではチベットの写真展や、命を懸けて国境を越える人々の記録映画上映も行われていた。

 そのような情勢を踏まえた上で、印象に残ったのは、チベット側の代表者が、集まった私たち日本人の観衆に手を合わせ、何度も謝意を述べていたこと、さらに、その根底にある仏教文化のつながりを、繰り返し強調していたことである。

 会場内で販売されていたチベットを紹介する冊子には、次のように書かれていた。

  『多年にわたる弾圧と残虐行為に苦しめられているにもかかわらず、チベット人は不撓(ふとう)不屈の精神で抵抗しています。(中略)それでもなお、チベット人の苦闘はまだ終わっていません。希求する自由は世界から、特にアジアからの支援があってこそ達成できるとチベット人は信じています』

 人権や環境の問題を掲げる欧米流の支援もありがたいが、チベット人にとっての根幹である仏教文化に対する支援は望みづらい。広く同じ仏教圏に属する日本や、その他アジアの国々に対する期待が大きいということだろうか。

 国を失った彼らに、われわれ日本人は何ができるのか? 最後に強く考えさせられた。

 なお、このイベントは東京では閉幕したが、引き続き5月9日から札幌でも開催される予定である。興味のある方、お近くにお住まいの方、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

【参考】 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
(2007年5月9日掲載)

先頭へ戻る
 
書庫一覧へ