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男の子はおっぱいがお嫌い?  新米オトンの戸惑い育児奮闘記(1)



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 前回立ち会い出産を体験したという記事を書いたが、今回はその続編である。1週間の入院期間を終え、いよいよ赤ちゃんが我が家にやって来た。

 赤ちゃんのお世話で大変なことは、おむつの交換や、夜に泣かれることなどいくつもあるが、その中で予期せぬつまずきが授乳の困難だった。

 赤ちゃんは本能的におっぱいを飲むはず。私も妻もそう思い込んでいたのだが、それは間違いだった。生まれたばかりの赤ちゃんは、おっぱいの飲み方(乳首の吸い方)を知らず、それはお母さんが教えてあげなくてはいけなかったのだ。

 もちろん個人差がある。お母さんの乳首の形状や、母乳の出具合にもよるし、赤ちゃん自身の個性もあるだろう。しかし、産院で看護婦さんが教えてくれたことには、女の子に比べると、明らかに男の子の方が覚えが悪いそうだ。

「だから最初は女の子の方が育てやすいって言うのよ」

 一姫二太郎という言葉は私も知っていたが、それは、お兄ちゃんよりお姉ちゃんの方が、次に生まれてくる弟や妹の世話を手伝ってくれるからだと思っていた。それもあながち間違いではないが、授乳にせよ、ほかの何にせよ、女の子の方が物覚えがよく、だから育てやすいのだという。

 我が子は誰に似たのかおっぱいの吸い方が下手で、それどころかしばしば嫌がって泣きじゃくる。赤ちゃんといっても力はけっこう強く、腕を突っ張られ、頭をぐっと反らして拒絶されるとどうしようもない。しかし、あくまで母乳で育てたいなら、ここで諦めてしまわず、おっぱいの訓練を積ませることが、大事なのだそうだ。

 号泣して嫌がる赤ちゃんの頭を押さえつけ、口を開かせ、乳首をねじ込むように中に入れる。

 それは、私が従前に想像していた「おっぱいをあげる」という微笑ましい行為とは、180度異なるまるで拷問のような光景だった。

 それでもなかなか飲んでくれないので、仕方なく哺乳瓶の助けを借りる。あらかじめ母乳を絞って入れておくか、あるいは市販の粉ミルクを使うのだが、すると途端にケロッと泣き止んでごくごくと飲み始める。哺乳瓶の乳首は人間の乳首よりもとがった形状をしており、赤ちゃんにとってはずっと吸い付きやすいのだ。

 かくして妻は、まずおっぱい訓練、ついで哺乳瓶を使って飲ませ、最後に自らおっぱいを絞って哺乳瓶に溜めておくという3段階の工程を、およそ3時間ごとに繰り返さなくてはいけなくなった。このうち哺乳瓶による授乳は私など他人が代われる部分だが、おっぱい訓練や搾乳は妻自身でないとできない。

 寝不足と、我が子がおっぱいを飲んでくれないというやるせなさで、妻が憔悴しているのが分かった。

 育児ノイローゼなどという言葉をよく聞く。その極端な事例が、悲惨な虐待や育児放棄である。そういったニュースを聞くたびに、「嫌な世の中だ」などと安易に口走ってしまいそうになるが、世の若い母親たちがそこまで追い込まれてしまう状況理由が、少しだけ分かるような気がした。

 しかし、できの悪い我が子も、少しずつ進歩している。妻は毎日授乳の記録をノートに付けているのだが、生後11日目にして、初めてハートマークが書かれた。

「左のおっぱいに吸い付いてくれた。とても嬉しい」

 それまでも、ただ口に含んだり、数秒の短い間くわえたというのはあったのだが、初めて長い時間吸い付いて、まともに飲んでくれたそうだ。

 12日目、13日目は一転して、また飲んでくれず。しかし14日目、再びハートマークがついた。翌15日目にはハートマークが2つ並んだ。

「ミラクル! 左右両乳首から授乳成功」

 3〜4時間ごとに授乳しているから、1日におよそ7回の授乳がある。そのうちまだ、1回ハートマークが付くかどうか。残りの6回は完全に哺乳瓶頼みであり、搾乳作業が欠かせない。

 でも、明日はハートマークが3つ、あさってには4つに増えるかもしれない。

 そんな成長する息子に1人の男として言いたい。

「次に吸えるのは何年後になるか分からない。今のうちに吸えるだけ吸っておけ」と。
(2007年3月7日掲載)

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