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国内外のニュースサイトに見られる報道の温度差 久間章生防衛大臣が今月24日、イラク戦争は間違いだったとする発言をした。防衛庁が防衛省に昇格したばかりであり、ブッシュ大統領が一般教書演説でイラク政策への支持を訴えた直後であることを考えると、アメリカに反旗を翻すかのような発言を、他(ほか)ならぬ「国防」の長が為(な)したという事実は興味深い。 私は前回「防衛省昇格を報じる海外のニュースサイト」という記事を書いたが、同様に、防衛大臣の「問題発言」が国内外でどう報じられているのか、調べてみた。 まず日本のマスコミ。朝日新聞は「久間防衛相、止まらぬイラク戦批判」との見出しで、「元々、久間氏はイラク戦争に強く疑問を投げかけてきたが、閣僚就任後もそうした発言を続けており、政府内には日米関係への悪影響を懸念する声も出ている」と書いている。さらに「久間さんは正しい」と、この発言を支持する民主党の鳩山由紀夫幹事長の言葉を紹介し、安倍首相は「私は問題ないと思う」と記者団に語り容認する姿勢を示した、と結んでいる。 これに対し産経新聞は、大いに批判的だ。 コラム産経抄において「閣内不一致だとそしられても仕方がない発言だろう」、「(防衛大臣は)米国のイラク戦争を支持している安倍内閣の一員であるばかりでなく、日本の安全保障に責任を持つポストだ。その重責を担う人物が同盟国のトップをけなした影響は決して小さくない」。イラク戦争の是非よりも、アメリカを批判するなという論調であり、「同盟を傷つける発言は百害あって一利なしだ」と強い調子で書いている。 当のアメリカの反応は、読売新聞に小さく載っていた。「これに対し米政府内からは、『久間氏は昨年も同様の発言をした。ゲーツ国防長官がイラク問題に全力で取り組んでいる時に、日本の防衛相がそんな考えでは、防衛相会談などは難しい』との厳しい声が出ている」 続いて海外のマスコミ。お隣の韓国でこの話題を取りあげていたのは、朝鮮日報だ。「久間防衛相『イラク開戦判断は間違い』」との見出しで、短い記事であった。 さらに私は、「防衛省昇格を報じる……」の記事で引用した、中国の人民日報、アメリカのCNN、イギリスのBBCのサイトを検索したのだが、いずれにおいても、今回の久間防衛大臣の発言を伝える記事は見当たらなかった。人民日報はさておき、CNNやBBCが沈黙しているのはイラク戦争を推し進めた米英にとって都合の悪いニュースだからだろうか。 この疑問に基づき、アメリカのワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、イギリスのインディペンデント各紙のサイトを調べたところ、ワシントンポストだけがAP通信の配信記事として伝えていた。その記事は「日本の防衛大臣は、アメリカのイラク侵攻を間違いだと批判した当初の発言を撤回した」という書き出しで始まり、「日本語と英語の違い」だとして英訳による誤解が生じたのだとする久間大臣の釈明を紹介していた。発言そのものよりも、その後の対応に焦点を絞った記述であるのが興味深かった。 そして、このニュースを大きく取りあげていたのは、防衛省昇格のニュースも詳報していた、中東カタールの衛星放送アルジャジーラだ。「日本の大臣:イラク戦争は誤り」との見出しで、久間大臣の発言を紹介し、一方で「増派はイラクに安定性と回復をもたらすためのアメリカの強い決意を示している」というブッシュ大統領の一般教書演説を支持する安倍首相の発言を載せていた。さらに、自衛隊のイラク派兵を巡る経緯について説明するなど、単に久間大臣の発言を報じるだけでなく、これを巡るさまざまな情報を掘り下げ、日本の一連の動きをつぶさに見定めようとする姿勢がうかがえた。 このほかにも、「Kyuma」あるいは「Kyuma Iraq」で検索すると、相当数のニュースサイトがヒットした。例えばインディアデイリーは「イラクに侵攻したブッシュは間違いだ:久間」という見出しを、ブルームバーグニュースは「日本の久間がブッシュのイラク戦争決定は誤りと発言」という見出しを、それぞれ掲げていた。 伝えるメディア、伝えないメディア、その温度差はあれど、日本の防衛大臣がイラク戦争を否定したというニュースが、一夜にして全世界に広がり、少なからず波紋を呼んでいることが知れた。 イラク戦争を支持した日本、その日本の初代の防衛大臣がイラク戦争を批判した。このニュースをどう解釈するか。それは読む人次第であるが、久間氏がイラク戦争に懐疑的であったのを承知の上で、安倍首相が省に昇格させるつもりの防衛庁長官に任命したのだとするなら、その意味するところは、単なる「うっかり発言」の枠を越えているのかもしれない。 今後の日本の防衛政策の行方が注目される。 (2007年1月29日掲載)
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