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日本社会の右傾化・保守化などということがよく言われる。靖国神社参拝、愛国心教育の是非を巡る論議を見ると、戦前回帰、軍国主義復活の兆候だと懸念する声が少なくない。 本当にそうだろうか? 欧米一辺倒だった戦後体制から脱却し、日本人が自信を取り戻すこと。私はむしろ、社会の根底にあるうねりとしては、戦前よりももっと昔の文化、つまり江戸文化の見直しではないかと思う。 1つの象徴は、和服の流行が挙げられる。10年前、私が学生だった頃、卒業式の着物姿や、花火大会の浴衣姿は珍しかった。私の七五三は、洋装しか着せてもらった記憶がない。 ところが最近は、初詣、成人式、卒業式、入学式、花火大会、秋祭り、七五三などなど、季節ごとのさまざまな行事で、和装の若者や子供たちを見かけることがじつに多い。女性向けだけではなく、男性向けの着物や浴衣も、デパートで特集されるようになった。 戦前生まれのおじいちゃん、おばあちゃんだけではない。むしろ戦後の団塊の世代を飛び越して、若者たちが和服を着る。 なぜなら、和装はカッコイイし、カワイイのだ。 日本の伝統がカッコイイのは、服装だけではない。たとえば健康に良いといわれる和食ブーム、座禅体験などのプチ出家ブーム、和風な小物やインテリアのブームなど、枚挙にいとまがない。 加えて、江戸時代は究極のリサイクル社会だった。幕藩体制のもとで地方分権も確立していた。社会のあらゆる側面で、日本人がかつて持っていた文明の高さが、見直されようとしている。決して「鎖国下の遅れた時代」なんかではなかったことが、各分野において実証されつつある。 2007年の論点として、私は「江戸回帰」を注目したい。 江戸、明治、そして戦後。互いに異なる3つの時代から、教訓を学ぶべきである。特に明治維新以降、脱亜入欧の近代化政策のもとで無視され続けてきた江戸時代の知恵に、今一度立ち帰ってみるべきではないだろうか。 (2007年1月1日掲載)
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