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チャリダー養成講座/第九回 風雨に負けるな



心配なのはやっぱり天気。もちろん晴れれば嬉しいけど、雨の日の対策は?

 以前の回で自転車の故障について述べました。故障と並んでチャリダーを悩ませるのが、気象条件、つまり雨と風です。私も旅行中、もう数え切れないくらい、大雨の中で、あるいは強風に逆らいながら、ペダルを漕ぎ続けたことがありました。こう書くと、ああやっぱりチャリダーは苛酷な稼業だな、しんどいだけだな、自分には無理だな、と思うかもしれません。しかし、そんな大自然の気まぐれを相手に真っ向勝負で走り続けることこそ、自転車旅行の大きな醍醐味でもあるのです。

*   *   *

●晴れの日

 いいですねえ。晴天吉日。チャリダーのみならず全ての旅行者にとって、晴れの日は嬉しいものです。同じ道を走るにしても、晴れと雨とでは、見える景色がまるで違ってきます。

 そんな晴れの日に気をつけることは、日焼け対策です。私はかつて北海道を走ったときに、これを怠ったがため、顔が真っ赤に焼けて、ヒリヒリ痛くてどうしようもなくなってしまったことがありました。太陽光線が顔に当たるだけでも痛くなり、仕方なくタオルを顔に巻いて走りました。

 日焼けは軽い火傷の一種です。乾燥気候の砂漠地帯を走る場合など、酷いときには皮膚癌の恐れがあるほど焼けてしまうこともあるといいます。日焼け止めは世界中で手に入りますし、つばのついた帽子をかぶるだけでも陽射しは防げますので、焼きすぎにはくれぐれも注意しましょう。

 また熱中症や脱水症状にも充分な注意が必要です。これを防ぐには水の補給が大きな鍵となりますが、この点については改めて特集したいと考えています。

南アフリカ/宇宙まで突き抜けるような群青の空
【南アフリカ/宇宙まで突き抜けるような群青の空】

●曇りの日

 長距離走行を目指すとき、最も走りやすいのは曇りです。雨の降る心配のない薄く雲が出ているような天気が、チャリダーにとっては最高かもしれません。

 日本ではなかなか体験できないことですが、大陸の広大な大地を走っていると、自分がいる場所は晴れているのに、遠くの黒い雲が地平線の付近で雨を降らしている様子を、はっきり視認できるようなことがあります。稲光りを轟かせている黒い雲が前方にあり、道がまっすぐその雲に向かっている。雨に突入すると分かっているのに進まざるを得ない、ときにはそんなジレンマもあります。

●雨の日

 さて、いよいよ本題。雨の日です。

 基本的な雨具は、合羽です。登山用の合羽、ゴアテックス製のものがなんといってもお薦めです。値段は上下で三万円前後と恐ろしく高いのですが、防水性、通気性、耐寒性など、長距離の自転車旅行にとって重要な要素を兼ね備えています。

 およそ雨具を持たずに自転車旅行に出かけるというのは考えられないのですが、実は私は一年以上の長きに渡り、合羽を持たないチャリダーでした。自転車と一緒に合羽を強盗に奪われて以来、雨の滅多に降らない地域、乾期をつなぎあわせて走り続けていたこともあり、中東もアフリカも西アジアも、折畳傘だけで走り抜きました。その間まとまった雨に降られたのは、ジンバブエと南アフリカとトルコでそれぞれ数日間だけでした。

 再び合羽を購入したのは、ヒマラヤへトレッキングに出かけようと思ったネパールでした。しかしその後、中国では雨に降られることが多く、合羽頼みの日々が続きました。

中国東部/大雨で洪水となった道を往く
【中国東部/大雨で洪水となった道を往く】

●風の日

 多くのチャリダーにとって、雨よりもむしろ嫌われているのが風です。もちろん追い風ならこの上ないのですが、横風や向い風の日は最悪です。雨はたしかに体力を消耗しますが、風は体力を消耗させるだけではなく、速度も奪います。無風なら時速二十五キロで走れる平坦な道で、強い逆風のために時速十五キロ足らずしか出せないということはよくあります。上り坂であれば、いつかは峠を越して下り坂に転じますが、向い風は季節が変わらない限り、明日になっても明後日になっても向い風が続くというようなことがあります。

 自転車レースをテレビなどで見たことのある人は、先頭を風よけにしてぴったり後ろにくっついて集団で走っている様子を見たことがあると思いますが、風を正面で受けるのとそうでないのとでは、消耗するエネルギーが圧倒的に違います。もし二人以上で自転車旅行を予定するのであれば、交互に先頭交替をして走りましょう。

●雪の日

 よほど季節を選び間違えなければ、雪の降りしきる中を自転車旅行する羽目にはならないと思いますが、標高の高い峠道や、半年を越える長い旅で季節が冬にさしかかるような場合、ときに雪に降られることもあるでしょう。

 ごく生活レベルの話ですが、仙台に住んでいたとき、冬に大雪が降った日でも、私は自転車に乗って出かけていました。しかし札幌に住んでいたとき、十二月から三月までは根雪になるため、冬の間は自転車に乗れませんでした。違いは何かといえば、路面が凍りつくか否かです。

 ネパールの峠道の下りで、凍った路面で転倒してしまったことがありました。もし旅程の都合により冬場走ることになってしまった場合、雪よりもむしろ道路の凍結に注意して下さい。車と同じです。

ヨルダン/中東の国も季節と場所によっては雪が降る
【ヨルダン/中東の国も季節と場所によっては雪が降る】

●もう一度雨の日

 チャリダーの多くは雨より風を嫌うと書きました。でも、私はやっぱり雨のほうが要注意であると考えます。体力的には風のほうが辛いのですが、雨は体力を奪うだけでなく、自転車を消耗させていくからです。

 人間の身体は休めば回復しますが、自転車は雨に濡れたぶんだけ確実に、ブレーキの効きが悪くなったり、チェーンが錆びたり、その他様々な部品が少しずつ傷んでいきます。つまりチャリダーにとって最も厄介な故障を誘発するのが、雨だというわけです。

 旅の時期や長さにもよりますが、季節の見極めというのは非常に大事です。夏なのか、冬なのか、雨期なのか、乾期なのか。もちろん訪れる名所によって観光に適した時期というのは異なりますが、チャリダーにとっては第一に、走りやすい季節を選ぶことが肝腎です。また、朝から雨が降り続けているような日は走るのをやめて、晴れるのを待つのも一手でしょう。

*   *   *

 どうでしょうか。晴れの日、雨の日、風の日、やっぱり自転車旅行は大変だ、そんな印象を持ってしまったかもしれません。

 自然は偉大です。人間がいくら頑張ったからって、自然を克服することはできません。日本と違い外国では、とりわけ発展途上国では、天気予報などありませんから、明日の天気はその日になってみないと分かりません。

 気楽に行きましょう。

「降るな~!」

 どんより曇った空に向かって叫びながら、ペダルを踏み込めばいいのです。

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