ふねしゅーの日本探訪/其の壱 表銀座&槍穂縦走
日本の屋根北アルプス、槍ヶ岳から奥穂高を歩いた
8月12日 夜行列車 雨の中の出発
待望の夏休み。夫婦で北アルプスの縦走に出かけた。新宿発の夜行列車ムーンライト信州に乗って、穂高駅から乗合タクシーで中房温泉へ。天候は生憎の雨模様。登山客はみな雨具を用意して、燕岳を目指して登り始める。北アルプス三大急登と呼ばれる道、黙々と登っていく。合戦小屋にて休憩をとり、降り止んだ雨、ゆるやかになった坂、まもなく燕山荘に到着する。
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燕岳から大天井岳へ 縦走開始
山荘に荷物を置いて、往復一時間で燕岳山頂へ。真っ白な花崗岩質の山容。天気は冴えず、また雨がポツポツと降り始める。燕岳から大天井岳へ。その先槍ヶ岳まで続く縦走路は、表銀座と呼ばれるほどの人気の道だが、悪天候のせいか人通りは少なかった。夜行列車明けで寝不足の中、視界の効かない最後の登りは辛く、午後三時半過ぎに大天荘へ。
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8月13日 曇天の表銀座を歩く 虹が出る
二日目も冴えない曇り空。大天荘から徒歩十分の山頂も視界ゼロ。ここから目指す槍ヶ岳。どこにあるのかさっぱり見えないが、雨は止み、空も徐々に明るくなってくる。ときおり陽射しも差し込んで、緑の谷に大きな虹が架かった。赤石岳から西岳へ。高山植物を愛でながら、岩場で遊ぶライチョウを見かけ、霧の中を歩く猿の親子と出会いながら、一つ一つピークを越えていく。
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晴れた! 槍ヶ岳山頂
水俣乗越で昼食をとり、午後は東鎌尾根を西へ西へ。ヒュッテ大槍で最後の休憩をとって、六百人収容という巨大な槍ヶ岳山荘へ。午後三時、にわかに青い空。山荘から槍ヶ岳の山頂までは急登。垂直に架けられた長いハシゴを登ると、十名ほどの登山者が集まる狭い頂き。風が吹き、雲が流れ、突然に視界が広がる瞬間。雲のスクリーンに自分の姿が映るブロッケン現象も初体験した。
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8月14日 標高三千メートル 高峰を背にしながら
日の出は見えず霧の中、早朝六時、槍ヶ岳を後にする。飛騨乗越を通過し大喰岳への道、空がすぅーっと明るくなっていく。なだらかな山容、圧倒的な景色。中岳から南岳へ。標高三千メートルの散歩道。左手には昨日も一昨日も見えなかった大天井岳や常念岳の姿が雲上に浮かぶ。背後には霧をまとった尖鋭な槍ヶ岳。行手には穂高連峰の急峻な姿が見える。日本の山も凄いぜ。
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日本有数の難所 大キレットを越える
午前九時半には南岳山荘を通過、いよいよ挑むは大切戸(キレット)。『重大事故が頻発しています』と立札。まずはガレ場の下り。クサリやハシゴを駆使してサクサク降りる。思ったほどではないなと、最初は余裕。やがて急な岩場の登り、長谷川ピーク。降りてくる人とのすれ違いを待って登る。登って、登って、登り終わって、ストンと切れ落ちる断崖絶壁に唖然。クサリと、足場と、天運に命を預け、一歩、また一歩、そして一歩。
下ってA沢のコル。垂直にそびえる摩天楼のような北穂高。いつの間にか正午を過ぎて、小屋を目指す最後の登りは雨に降られ、怪我人が出たという話を聞いた。
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8月15日 猛風吹きすさぶ 垂直壁を登る
四日目は悪天候。北穂の小屋からは何も見えず、強烈な風と雨の中の下り。ほんの刹那霧が晴れると、正面に塞がる涸沢岳の南壁。まるで地獄の底から須弥山を目指して、這い上がる餓鬼の群れのような登山者たち。強風に揺られ、ハシゴにしがみつく。昨日は微笑んだ山の神が、今日は鬼神となって試練を課してくる。ようやく辿り着いた穂高岳山荘。一息ついて早めの昼食をとった。
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奥穂から前穂へ 雨中の行軍は続く
日本第三位の高峰、奥穂高岳へ。西の斜面からは、絶えず雲が吹き寄せてくる。山頂には小さな社が建つが、景色はまるで見えず。残念!ここから前穂へと続く吊尾根。雨風は幾分その勢いを弱めるが、僕は合羽の中までぐしょ濡れで寒さに震え、妻は折からの膝の痛みと戦い、滑りやすい岩場を慎重に越えていく。
午後二時に前穂高岳。ようやく雨が止み青空も覗くが、頂上からは雲しか見えず。ここから重太郎新道と呼ばれる長い下り。疲れ果ててようやく、岳沢ヒュッテに着いたのは夕方五時。
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8月16日 疲れを癒す 宿泊は山小屋で
今回の山行は、テントを持たず全行程山小屋泊。悪天候にたたられた日が多かったので、風雨をしのげる小屋の存在は有難かった。前半は自炊、後半は小屋の食事に頼った。一泊素泊まりで一人5500円、二食付きだと一人8500円というのが相場。生ビールは800円、カップラーメンはお湯付きで400円。中高年の登山客はみな大枚を落としていた。八時半には消灯で、四時半起床の健康生活。どこも想像以上に快適な小屋だった。
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晴れ間の覗く最終日 上高地へ
朝起きると雲海が広がっていた。背後には昨日まったく見えなかった穂高連峰の尾根が朝日を浴びている。ちょっぴり悔しい下山の日。しかし本当に晴れていたのは早朝だけで、まもなく山は厚い雲に覆われていた。麓の上高地はいい天気。軽装の観光客が梓川沿いを散策している。風呂につかって五日分の汗と汚れを流し、ともあれ生きて帰れてよかったと、ビールで乾杯。今度は快晴の日に来たいなあ。
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