アセアン・ツアーコンテストその2 カンボジア/井戸掘りの村&影絵工房(2009年春)
いわずと知れたアンコール・ワットのお膝元、典型的な観光で栄える町である。
10年前に訪れたときは、昼間はずっと遺跡観光で、ほとんど町を歩いた記憶がないが、
今回は改めて、町をぶらりと散策する時間も持てた。
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3月22日 アンコール遺跡の北、井戸掘りの村
ツアー3日目。朝の集合時間の前に、ホテルの周辺を散歩。アジアの朝はやっぱり早い。バイクや自転車に乗っての通勤・通学ラッシュだ。国道沿いには「懐かしい」距離標識、プノンペンまで312キロという数字に、即座にチャリで3日だな、と計算してしまう。ところでこの標識の形状は中国と同じような気がする……。中国の援助で造られているのだろうか?
【シェムリアップ市内の国道】
朝食後、午前中の予定は井戸掘りの村。途上国に井戸を、というボランティアツアーが最近流行っているというが、その現場を見ようという主旨だ。
訪れたプロム村は、アンコール遺跡の北部、いわゆる遺跡エリアの中にある。未舗装路の脇、一人暮らしだというおばあさんの家の隣に、その井戸はあった。
井戸に刻まれた日付を見て驚く。なんと今年今月、つい十日ほど前に完成したばかりの新築ほやほやの井戸だった。給水能力などの数値データのほか、協力したNGOの名前も記されていた。
【郊外の村、最近できた井戸】
できたばかりで嬉しいのだろう、おばあさんは何度も何度も水を汲んでみてくれるが、バケツからどんどんこぼれる水がもったいない。アセアンセンターの人に促されて、私たち受賞者も井戸に手をかけて写真をぱちり。私は水を一口飲ませてもらったが、多少鉄臭いほかは、まあ普通の水だ。
そのあと、おばあさん、および井戸掘り協会なる井戸普及組織の担当のおじさんと、質疑応答。最近NHKの番組で、ボランティアツアーで掘った井戸から砒素が検出され、住民に健康被害をもたらすケースがあると報じられていたのを見たことがあり、これについて質問をしたところ、一連の事件を受けて、現在ではきちんと水質検査をしているから大丈夫、との回答だった。
面白かったのは、「アンコール遺跡に行ったことがありますか?」という質問に対するおばあさんの回答で、答えは「はい」なのだが、若い頃はちゃんとした道などなく、歩いて1泊2日の行程で(現在は車で10分ほど)、しかも遺跡には虎がいたとか。
【井戸に関する質疑応答の模様】
カンボジアが貧しいなあと思うのは、遺跡の観光客が外国人だらけで、カンボジア人がほとんどいないことだが、地元の人も昔から遺跡を認知し訪れていたことがあったと知れたことは、ちょっぴり嬉しい事実だった。
しかし、午前中の数時間だけ、ちらっと訪れただけで何が分かるわけでもないし、自分たちは高級ホテルに泊まり、ミネラルウォーターをがぶ飲みしているわけで、こういう形の視察にどれだけの意味があるのだろうか。
また、貧しいから、かわいそうだから、という考えで井戸を掘って「あげる」というボランティアの行為自体、その精神が間違っているとまでは言わないが、少なからず「上から」の目線があり、やっぱり私は好きになれない。
シェムリアップ市内に戻るバスの中、受賞ツアーの同行者と、そんな議論も交わした。意見はそれぞれ違うのだが、こんな話ができるのも、一つ旅の良さでもある。
自由時間に市場、夕方は影絵工房へ
昼食後、集合時間は午後三時半であり、時間が空いた。そこで受賞者仲間の二人と散歩に出かけることにした。歯学系の男子学生と、旅行専門学校の女子学生である。シェムリアップ川沿いを歩いて、オールドマーケットへ。家族へのお土産を買おうと、象の絵が刺繍された子供服を見ていると、二人がひどく驚いている。
「え? 子供いるんですか?」
【オールドマーケット】
そして夕方は、市内東部の影絵工房へ。ここも昨日訪れた音楽学校と同様に、孤児院を兼ねているらしく、奥のほうに子供たちの生活スペースが見えた。子供たちが作成した大小さまざまな影絵の作品が、壁に張り出されており、土産品として販売されている。
ときどき他の観光客と思しき外国人もやってくるので、ツアーに組み込まれているのかと思ったら、歩いて百メートルほどの場所に、遺跡があった。なるほど。影絵工房のオーナーは、それなりの商売上手のようだ。歯学部の学生くんが、彼の着ているシャツを指して「あれ、そうとう高いですよ」と言っていた。
【孤児院を兼ねた影絵工房】
ともあれ出発。シェムリアップの市街から遺跡方面へ。以前訪れたときはバイクタクシーをチャーターしたのだが、そのときの記憶とは沿道風景が違う。街道沿いにずらーっと建ち並ぶホテルや土産物屋、韓国資本や中国資本が増えているとも聞いた。
やがて遺跡エリア内に入ると、そのような商業建築物はなくなり、緑のジャングル一本道となる。たしかその途中の道端に小さな検問小屋があって、入場料を取られるんだなと記憶をたぐり寄せていると、突如サービスエリアのような巨大施設が現れた。観光バスやらタクシーやらが密集し、たいそう賑わっている。その場で写真を撮って1日券が作成された。
【孤児院を兼ねた影絵工房】
夜のシェムリアップ、バックパッカー集まるバーストリート
夜はまた学生二人と、今度はオールドマーケットにほど近いバーストリートを訪れる。シェムリアップは大雑把に言って、中心部の北側に高級ホテルや大型ホテルが集まり、南に行くにしたがって、ゲストハウスが集まっている。バーストリートの界隈は、外国人向けのレストランやバーが集まり、西洋人で賑わっていた。うち一軒に入ると、店内は意外に広い。そして舞台があり、クメールダンスが披露されていた。音楽学校で見たものと同じであり、昨晩の観光客向けレストランで見たものと同じである。音楽学校を優秀に卒業した者は、もっと高級なホテルで踊り、そうでない者がこういった場末の舞台で日銭を稼いでいるのかもしれない。
二人ともけっこうお酒が強く、子持ちのおじさんとしては、久しぶりに若い人と交流が持てて楽しい夜となった。
【外国人集まるバーストリート】