タイ・プーケット子連れ旅行/5日目 国際色豊かなパトンビーチ
いつもながら、ようやく旅人としてのエンジンがかかり始めたころに、
帰国日を迎えてしまうのが社会人旅行の残念なところ。
土産物を探しながら、五日目にして初めてパトン・ビーチをのんびりと巡る。
8月6日
中国、インド、そしてアラブ 新興国の旅行者たち
タイのみならず、おそらく東南アジア全体でも最大級の国際リゾート地であるプーケット。その賑わいの中心がパトン・ビーチ。私たちが泊まったホテルには、世界中からの旅行者が泊まっていた。
世界中である。
従来、このような文脈の中で「世界中」という言葉が使われた場合、本当は「世界の一部」にすぎないことが多かった。どういうことかといえば、北米、西欧、豪州、それに日本、つまり先進国と呼ばれる国々だ。お金に余裕がなければ海外旅行などできないのは当たり前の話で、だいたいどこの有名観光地へ行っても、出会う旅行者は、これら先進国からの客のみ、しいていえばプラス地元の富裕層であった。
だが今回のプーケット旅行では、大きな潮目の変化を感じた。
私たちの利用したホテルには、中国系、インド系、そしてアラブ系の宿泊者が少なからず目立っていた。もちろん白人客や、私たち日本人も割合としては多いのだが、圧倒的多数ではなかった。
中国系については、台湾や香港からかもしれないし、タイやマレーシアなどの「地元」の華僑かもしれない。ただ、インド系やアラブ系の旅行者が増加しているのは、紛れもなく彼らの経済力向上の裏返しであろう。五年前、まだ私が自転車であちこち駆け巡っていた頃は(そのときにプーケットは訪れていないが)、なかった光景であった。
【アラブ料理のレストラン】
【巨大ショッピングセンター】
象徴的だったのはホテルのレストランでの朝食バイキング。私の印象では、だいたい観光地のレストランというのは、地元の料理を除けば、欧米人の嗜好にあった料理で占められる。つまり朝なら、トーストと、スクランブルエッグと、コーヒーという具合だ。日本人が多い場所であれば、インチキっぽい(失礼)日本食レストランがあって、ヌードルスープなんかを出していたりするが、要は、国際的な観光地で供される料理のシェアは、旅行者の出身地の経済力にほぼ比例するというわけだ。
いわゆる西洋風の朝食メニューに加え、白いご飯があり、味噌汁もあり、キムチもあった。そして焼きそばがあり、カレーがあり、香辛料たっぷりの煮込み料理も並んでいた。一つは必ず「チキン」と明記されていたから、宗教的な配慮もなされているというわけだ。
ホテルの外へ出ても、同じことが言えた。インド料理やアラブ料理のレストランが、けっこう多いのだ。中にはハラルフード、つまり「イスラム教徒に適した調理をしています」という看板を出している店や、店頭に水タバコが並んでいるところもあった。店名が「ドバイ」や「カイロ」と分かりやすいのも特徴で、さしずめ「キョート」や「トーキョー」といったノリなのだろう。
ただ不思議なのは、ホテルでは多く見かけた彼らは、ビーチにはほとんどいないということだ。よく考えれば、人前での肌の露出を嫌う彼ら、特に女性が、西洋人のように水着姿でビーチに座っていることなど、ありえないではないか。インドやマレーシアで、着衣のまま海に入っている女性を見たことがあるが、そんな姿もパトン・ビーチではまったく見かけなかった。
海に入れないのに、なんでプーケットに来たんだろう? その疑問は、カルフールやロビンソンが入った巨大なショッピングセンターを訪れて氷解した。冷房の効いた店内では、サリー姿やチャドル姿のおばさんたち(とおじさんたち)が買い物を楽しんでいたのだ。
二日目に訪れた仏教寺院のワット・チャロンや、四日目のプロンテップ岬でも、インド系やアラブ系の旅行者を見かけはしなかった。とすれば、買い物やホテルでのんびりすることを主目的で来たのか、あるいは私たちが訪れなかった動物園や水族館などのレジャー施設に行くのだろう。いずれにせよ、今後彼らの存在感は、ますます増していくことが予想された。
【ビーチのあづまや】
【パトン・ビーチ】
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世界の力関係 潮目の変化を感じて
夕方プーケットを発ち、帰りはバンコク経由。二年前に開業したスワンナプーム新空港である。噂に聞いていたとおりの巨大空港で、利用者はこれまた多国籍であった。パトン・ビーチと同じように、インド系やアラブ系の旅客が増えているように思えた。
成田空港は、まだまだ圧倒的に日本人の利用者が多数である。日本を訪れる外国人が年々増えているとはいえ、まだ日本人出国者の半数以下。しかも近場の韓国、台湾、香港と、欧米先進国からの渡航者が大半だ。ひょっとすると日本は、世界の潮流から少し遅れているのかもしれない。私はふとそんな恐れを抱いた。たとえば東アジアの主要都市でドバイからの直行便が飛んでいないのは、およそ東京だけである。距離的に離れているとはいえ、寂しいことではないか。
世界の旅行者数と、出身国の国力は、これまたある種の比例関係にあると私は思っている。世界中で英語が通じ、米ドルが通用するのは、大英帝国の覇権とこれを受け継いだアメリカの力であるし、たいていの国で日本円の両替ができ、日本語が通じることがあるのは、世界第二の経済力といわれる日本の力だろう。
となると、十年後、二十年後、世界の主要観光地で幅を利かすのは、北京語であり、ヒンドゥ語であり、アラビア語であるのかもしれない。
【バンコクのスワンナプーム空港】
【バンコクのスワンナプーム空港】