チャリダー養成講座/第十四回 命の水を求めて
食事も大事だが、なんといっても肝腎は水。いかに確保するか?
水がなければ人間は死んでしまいます。チャリダーにとって水の確保は最も重要な課題です。とりわけ乾燥した砂漠地帯や、人里を遠く離れた山道を走るような場合は、充分な水を用意しているかどうか、途中で水を補給できるかどうかは、旅の成否を決め、ときに生死に関わるような大問題となります。
問題は二つあります。
一つは、いったいどれくらいの水を常時携行することが求められるのか、という水の量の問題です。もう一つは、水道水が飲めるのか、ミネラルウォーターが手に入るのか、といった水の質の問題です。
●水の量
私自身の自転車旅行の場合、最も少ないときで、およそ五百ミリリットル容量の自転車用ボトル一つ、これだけの装備で走りました。これは極めて走行距離が短い予定の場合、あるいは途中での飲料補給が百パーセント確実に可能であると分かっている場合です。具体的には、市内や郊外の観光に自転車で出掛けるような日帰りの場合です。
通常の都市間走行の場合、五百ミリリットルの自転車用ボトルに加えて、一リットルのペットボトルを一本ないし二本装備して走りました。前回も書きましたが、たいていは二十キロないし一時間に一度休憩をとります。街道沿いで町が続くことが分かっているようなときは、休憩ごとに新たな飲料の補給が可能ですから、予備のボトルはさして必要ないでしょう。水は非常に重いですから、荷物を軽くするためにも、あまり余分に携行することは得策ではありません。ただ、パンクなど不慮の事態を想定し、必ずペットボトル一本は予備として満タンにしておくようにしましょう。
【ペットボトル/自転車のボトルホルダーに差し込んで】
もし無補給距離が数十キロにおよぶ場合、気温が高い場合、乾燥気候の場合、日陰が少なくあまり休めないような場合は、さらに大量の水が必要となります。
●水の無い夜
最も辛いのは無補給距離が百キロを越える場合、そして次の町に辿り着けないまま途中で夜を迎えてしまうような場合です。走行距離が五十キロ程度と短くても、夜が野宿になり補給の見込みがない場合は同じです。
砂漠のただ中でテントを張る。喉がカラカラに渇いている。しかし明日また走ることを考えると、水は節約しなければならないのです。
イランからパキスタンにかけてのバロチスタン砂漠越えに備えて、私は容量八リットルの水タンクを購入しました。さらにペットボトルを持っていましたから、最大で十リットル以上の水を自転車に載せて運んでいたことになります。
それでも足りないくらいでした。
いちおう十リットルを目安としてください。
【水タンク/砂漠など長距離無補給が予想されるときには準備を】
●洗浄用の水
念のため。水には飲む以外の用法があることを述べておきます。詳しくは後の回で書こうと思いますが、怪我をした場合の傷口の洗浄と、汚い話ですが屋外で大きい方をした場合の後始末です。
特に前者については、重要なことであり、そのためにも最低限の水は残しておけと、私は学生時代のサイクリング部で教えられました。
●水の質
海外で生水を飲むな。
これはもう当然の常識のように語られる海外旅行の必須知識です。しかし、世界を舞台に大自然を相手に挑もうとしているチャリダーにとっては、いかに生水を飲みこなすかが、勝負の分かれ目といえます。
生水を飲め、とは言えません。水が原因で病気を患ってしまう可能性は少なからずあります。誰かがそうなっても、私は責任をとれません。
生水を飲むか、大枚はたいてミネラルウォーターを買い続けるか、脱水症状を起こすか。選択肢は三つです。そして国と場所によっては、二番目の選択肢がない場合がある。その現実認識は大切です。
【水がめ/水の供給方法は国や地域によって様々】
●ミネラルウォーター
一番安全です。しかし日本と外国では硬水と軟水という水質の違いがあり、そのために安全な水であっても人によっては軽くお腹を下すことがあるようです。
途上国の食堂で水をくれと言っても、出てくるのは水道水か、かめに汲み置きの水になります。ミネラルウォーターがほしい場合は、はっきりその旨主張しましょう。水道水を詰めて売っている場合もありますので、注意してください。
●水道水
日本でも最近は浄水器などが流行っているようですが、先進国の水道水はたいがい飲めます。一つの目安として、現地の人が飲んでいるか、これが大きな判断基準になります。現地の人もミネラルウォーターを買っているようなら、水道水は控えたほうが無難かもしれません。
もちろん現地の人が飲んでいるからって飲むと、身体にあわず下痢をする場合があります。インド人は日本の水が身体にあわず、日本に来ると下痢になるそうです。
●ジュース
外国の水道水は汚いからと、コーラで歯を磨く人がいるとかいないとか。コーラやスプライトの類には、旅行中ずいぶんお世話になりました。冷蔵庫でよく冷やされた飲料はとても魅力的です。休憩の際、コーラを買ってまず喉を潤し、また次の走りに備えて水をもらう、ということをよくしました。
またフルーツジュースもとても美味しいのですが、氷は水道水を凍らせただけなので気を付けたほうがいいと言われています。私は気にしたことはありませんでしたが。
【ジュース/むろん町であればなんでも手に入る。問題は……】
●お茶
その点、沸騰させたお茶は一番安心で、なおかつ値段も安い飲み物といえるかもしれません。自転車旅行をしていると、「まあ茶でも飲め」と御馳走になることもよくありました。
●生水
さて。本題に戻ります。
場所によっては水道水すらなく、雨水を溜めたり、川の水を汲んできたりして、水かめに溜めて飲用としているところがあります。不純物が浮かんでいたり、濁っているような場合もありました。
飲めるか。飲めないか。飲めなかったら何を飲むのか。
水は本当に貴重です。水が何より大切だというそんな当り前のことが、チャリダーをやると心に深く滲みて分かります。
とてつもなく喉は渇きますし、生水にあたったときの下痢の苦しさは耐え難いのですが、そんな水の有難さを痛感できることだけでも、チャリダーたる意義があるのではないかと、そう思います。
世界で一番美味しいものは水です。
間違いありません。