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自転車世界一周の旅/第134話 古都ガズニ 素朴な町並みを抜けて遺跡を探す


 カンダハルからカブールへ戻る道もまた、往路以上に苛酷な道のりだった。僕たちを乗せたカローラは道中パンクを二度、なおかつ途中から冷却器の不調によるオーバーヒートを連発するようになった。そのたび、川や池を見つけては水を汲み、車にぶっかけてはエンジンを冷まさなければならなかった。

 アフガニスタン
(Afghanistan)

アフガニスタン/古都ガズニ
【アフガニスタン/古都ガズニ】

 途中、僕たちはガズニという町で一泊した。古都ガズニはラホールで出会ったアフガン帰りの夫妻がお薦めの町だった。かつて王朝の首都が置かれたというこの町には、当時の宮殿跡やさらに古い時代の仏教のストゥーパがあるという話だった。

 市内の地図などはなく、宮殿やストゥーパがどこにあるのかはさっぱり分からなかったが、ガズニは歩いていてとても楽しい町だった。未舗装の街道沿いにある町とは思えないほど、バザールには活気があった。日用品を売る店が並び、食べ物を売る露店がひしめいていた。庶民に人気があるというマスード将軍のポスターが壁や窓に飾られていた。僕たちは赤い天幕の張られた露店で、牛肉を煮込んだスープを食べた。

アフガニスタン/古都ガズニ
【アフガニスタン/古都ガズニ】

アフガニスタン/古都ガズニ
【アフガニスタン/古都ガズニ】

 バザールを抜けていくと、正面の小高い丘の一帯に土壁造りの単色の家が並んでいるのが見えた。そんな丘の住宅地に足を踏み入れると、一転して風景が変わった。

 一面褐色のその空間で、子供たちが駆け回ったり、井戸で水汲みをして働いていた。バザールでは車が停車していたり、電化製品が売られたりしていたが、土壁に囲まれたこの集落には、そんな近代的なものは何もなく、杏の白い花がきれいであった。

アフガニスタン/ガズニの城砦
【アフガニスタン/ガズニの城砦】

 僕たちはさらに丘の向こうへと歩いた。褐色の丘がいくつも続き、土色の家並みが連なっていた。丘の頂きには兵士の駐屯があり、つい最近まで使われていたものなのかは分からないが、大砲が据え付けられていた。

 丘と丘の間の斜面には素朴で小さなモスクが建てられ、お墓が並んでいた。ずいぶんと古い廟のような遺構があり、内部にはうっすらと青い装飾絵が残されていた。お墓参りの女性たちがわいわいと歓談していた。呼ばれたゴッチンがお菓子をもらっていた。

アフガニスタン/ガズニの城砦
【アフガニスタン/ガズニの城砦】

アフガニスタン/ガズニの遺跡とお墓
【アフガニスタン/ガズニの遺跡とお墓】

*   *   *

 夕方、僕たちはいよいよカブールに戻ってきた。アフガニスタン旅行も残りわずかとなったが、僕はなんだか身体に疲労が蓄積していて体調が優れなかった。疲れが溜まると熱を出すのが僕のいつものパターンであり、嫌な予感がした。

 そんな夜半、熱っぽいこともあって僕はうとうとしていたのだが、扉をどんどん叩く音で起こされた。宿のおじさんかと思いきや、入ってきたのは警察だった。

「パスポート」

 警察はぶっきらぼうに言った。

 心臓が高鳴った。どこの国であってもホテルの部屋に警察が訪問してくるというのは嬉しいことではない。やましいことはなくても、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだし、いちゃもんをつけられて賄賂など要求されたらたまらない。ましてここはアフガニスタン。僕はカンダハルで兵士に殴られたことを思い出して嫌な気分になった。

 しかし、こういうときは平然と対応したほうがいい。僕とゴッチンはそれぞれ自分のパスポートを出して警官に渡した。警官は二人いて、どうやら片方が英語を喋れるようだった。僕は自分のパスポートのアフガニスタンビザのページを示し、あさってにはパキスタンに戻るつもりであることを言った。

 警官は僕の顔をじろりと見つめ、ゴッチンの顔もじろりと眺め、ややあってパスポートをぞんざいに投げ返した。そして部屋から出ていった。どっと疲れが噴き出した。

アフガニスタン/カブール博物館
【アフガニスタン/カブール博物館】

 翌日、僕たちはマザルシャリフの市場で見つけた絵葉書を書き、中央郵便局に向かった。郵便局の前には警備員がいて身体検査があった。局内はわりと広く、建物は古びていたがそのわりにきれいで整然としていた。日本までは封書が十五アフガニー(三十五円)で葉書は十四アフガニー(三十三円)、応対してくれた局員は女性だった。

 午後になって僕は明らかに寒気を感じるようになった。熱があると自分で分かった。そんな体調を押して、タクシーをつかまえて市街南部の博物館を訪れた。

 カブール博物館は建物の半分が破壊され、館内は薄暗くがらんどうでほとんど何の展示物もなかった。それでも開館はしていた。大きな器、アラビア文字の刻まれた碑文などが数点だけあった。『アフガニスタン美術・歴史展』と書かれた日本語のポスターが貼られていた。展示物の大半は海外に避難し、世界の博物館を巡っているのかもしれない。いつかこの国に本来の平和が訪れたとき、この博物館も復興を遂げるのだろう。

アフガニスタン/国境へ戻る車
【アフガニスタン/国境へ戻る車】

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 インド バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着
02 15 アンナプルナ内院、標高4000メートルに到達
20 ポカラ~タンセン間
28000
26 インド 自転車にて再々入国(ネパールガンジ)
03 02 仏教八大聖地巡礼達成
03 ビワール先
29000
07 再び、デリー到着
12 パキスタン 自転車にて再入国(ラホール)
24 アフガニスタン 車にて入国(ジャララバード)
25 カブール到着

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