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自転車世界一周の旅/第133話 内戦で破壊されたカンダハル しかし人々はこの町で生きる


 南部の都市カンダハル。米軍の攻撃で一躍有名になったタリバーンの本拠だ。

 アフガニスタン
(Afghanistan)

アフガニスタン/カンダハル市内
【アフガニスタン/カンダハル市内】

 あちこちで崩れさった家を見かけた。土壁がはがれ、煉瓦はむき出し、柱から鉄骨が突き抜け折れ曲がっていた。道はでこぼこで砂嵐がひどく、太陽は月のように白く弱々しく見えた。

 これが第二の都市かと、僕は相当な衝撃を受けた。カブールも破壊されていた。しかしカンダハルの「廃」っぷりは圧倒的だった。都市というよりもまるで廃虚の中に人が生活しているような、そんな感すらあった。

(戦争の爪痕とは、こういうものなのか!)

 リヤカーに木材や金属片を積んで、男たちが押していた。道路の舗装工事を始めている箇所があった。青いドラム缶が多数転がっていた。瓦礫の広場で子供たちが遊んでいた。楽しそうに笑っていた。

アフガニスタン/カンダハル市内
【アフガニスタン/カンダハル市内】

 宿から歩いてすぐのところに古いモスクがあった。中にいるのはなぜか女性ばかりで、僕は立ち入れず、裏手のバザールの入口でゴッチンを待つことにした。

 と、モスクの出入口を警備していた兵士の一人が、不意に僕のお腹を指差した。シャルワールカミースの下に、僕はウエストポーチを巻いていた。パスポートやカード類は別の場所に隠していたが、カメラや筆記具などが入っていた。彼らの言葉は分からなかったが、言わんとする意味は容易に察せた。

(それ、よこせ)

(いやだ)

 僕は抵抗した。いったん取られたら返ってこないと思った。

(なんだ、この野郎)

 兵士たちが険しさと嘲笑を交えたような表情で僕を取り囲んだ。腕を掴まれ、振りほどけない。強く引っ張られ、シャルワールカミースの袖が破ける音がした。一人が拳を突き出した。僕は横っ面を殴られた。戦慄が走った。殴られて痛いというよりも、これからどんな目に遭わされるのかという恐怖が身体中を巡って、頭が真っ白になった。兵士がさらに僕の腕を引っ張った。

(このままどこかに連れ去られたらどうしよう)

 リンチに遭い、身ぐるみはがされて捨てられたとしても、この国ではなんの助けも保証もない。最悪の場合、「日本人行方不明」として片付けられる。恥も外聞もなく、泣叫ぶように必死に僕はもがいた。

 兵士が手を離したのか、店のおやじが間に入ってくれたのか、よく分からなかった。ふと気づいたときには、僕は店の入口の木の椅子にぼんやりと座っていた。殴られた頬がずきずきと痛かった。

アフガニスタン/カンダハルのチャイ屋
【アフガニスタン/カンダハルのチャイ屋】

「それはなんだ。爆弾じゃあるまいな」

 おやじは僕のウエストポーチを示した。察するにどうやら僕はまず、外国人旅行者であるとは思われず、お腹に何かを隠し持っている怪しい奴だと疑われたらしい。だから兵士たちはウエストポーチの中身を検査しようとし、抵抗した僕を殴りつけたのだ。

 おやじの出してくれたチャイを啜る気にもなれず、殴られたショックとまだ心の中に残存する恐怖感でいっぱいになりながら、僕はゴッチンが戻ってくるのを待った。

アフガニスタン/カンダハル市内
【アフガニスタン/カンダハル市内】

*   *   *

 そして午後。気を取り直して僕たちは郊外の観光に出かけた。ムガール時代の遺構チヒル・ジナを訪れたあと、市の北部に建てられた水滴型の巨大モスクへ。

アフガニスタン/ムガール時代の遺構チヒル・ジナ
【アフガニスタン/ムガール時代の遺構チヒル・ジナ】

アフガニスタン/ムガール時代の遺構チヒル・ジナ
【アフガニスタン/ムガール時代の遺構チヒル・ジナ】

 そのモスクには遠くから見てもそれと分かる独特の雰囲気があった。現地に着いて分かったのだが、モスクは未完成だった。ドーム本体はできあがっていたが、ミナレットは建設中のまま、参拝客など皆無で、ほかのモスクには必ずある緑の園地や水場も見当たらなかった。

「このモスクはアルカイダが建てたモスクなんだ」

 案内してくれたオートリキシャの兄弟が言った。半信半疑の僕らに、彼らは繰り返し言った。

「オマルやビン・ラディンが建てようとしたんだけど、アメリカの攻撃を受けたんだ」

アフガニスタン/タリバーンの建てたモスク
【アフガニスタン/タリバーンの建てたモスク】

 モスクの中に入ることができた。今までに訪れたモスクは、幾何学模様であったり、象徴化された植物の絵やアラビア文字で装飾されているのが常だったが、このモスクの内装は一風変わっていた。アフガン各地の風景や建築物の具体的な絵に飾られていた。柱や壁や祭壇などは何もなく、ただがらんどうの空間だった。兄弟に促され、手拍子を打った。

 パーン。パタ、パタ、パタ、パーン、パアアーン。

 それは驚異的な音響効果だった。拍手ひと打ちが何度もこだました。まるで駅の旧式の時刻表示板がパタパタと回転するような音が共鳴し、増幅された音が脳にガンガンと響いた。コンサートホールなどで、その音響の良さを示すために手を打ち鳴らしてみることがあるが、このアルカイダモスクの音響効果は全くその比ではなかった。

「きっとここでテロリストが洗脳され訓練されたんだよ」

 僕は言った。安易な冗談ではなく、本当にそうではないかと思った。

アフガニスタン/タリバーンの建てたモスク
【アフガニスタン/タリバーンの建てたモスク】

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 インド バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着
02 15 アンナプルナ内院、標高4000メートルに到達
20 ポカラ~タンセン間
28000
26 インド 自転車にて再々入国(ネパールガンジ)
03 02 仏教八大聖地巡礼達成
03 ビワール先
29000
07 再び、デリー到着
12 パキスタン 自転車にて再入国(ラホール)
24 アフガニスタン 車にて入国(ジャララバード)
25 カブール到着

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