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自転車世界一周の旅/第132話 中央アジアの香り漂う マザルシャリフの聖なるモスク


 次の目的地は北部の中心都市マザルシャリフ。バーミヤンから直行の交通手段はなく、いったんカブールに戻ってカローラを見つけた。僕たち以外にもう一人、初老のおじいさんが乗客として乗っていた。

 カブールを出てまもなく日が暮れた。しかし当然のようにカローラは走り続ける。アフガニスタンは治安が悪いから夜走ることは絶対にない、そう思い込んでいた僕たちはとても驚いた。あたりが真っ暗になっても意外なほど交通量はあった。それだけアフガニスタンの治安は安定してきたのかもしれないと、僕は思った。

 アフガニスタン
(Afghanistan)

アフガニスタン/サラン峠
【アフガニスタン/サラン峠】

 やがて車は峠道にさしかかった。電灯などはもちろんなく、行き交う車のヘッドライトやテールランプだけが点々と道に沿ってつながっていた。大人数を詰め込むハイエースと比べ、カローラは乗り心地に優れているだけでなく、坂道の加速も良い。料金の高さにはそれなりの理由があるのだなと理解した。

 僕は持っていたカセットテープを運転手に渡した。サザンやスピッツが車内に響く。まるでここは日本で、週末の夜のドライブに出かけているような不思議で楽しい気分になった。運転手と乗客のおじいさんが喝采してくれた。サラン峠は三千メートルを越える標高があり、トンネルの手前で渋滞していた。気がつくと周囲は一面の雪。真っ暗なのでよくは分からなかったが、相当積もっているように見えた。

 峠を下ったところのレストランで一泊。カローラで寝てもいいよと運転手に言われ、雑魚寝を避けて車中泊を選んだ。リクライニングの快適さは感動的だった。

*   *   *

アフガニスタン/マザルシャリフの宿
【アフガニスタン/マザルシャリフの宿】

 翌朝カローラは、緑の絨毯のごとき草原をひた走る。この一帯は、ウズベキスタンの国境にもほど近い。途中の町で乗客が一人増え、まもなくマザルシャリフに着いた。

「気高き墳墓」という意味を持つマザルシャリフ。その象徴であるハズラット・アリ・モスクことブルーモスクを中心に、建物はいずれも青い塗装で統一されていて、どこか落ち着いた穏やかな街並みだった。

 宿はブルーモスクの門前すぐ近くに見つかった。同じビル内に地雷防止運動や教育活動を行っている事務所があり、僕たちはなりゆきで案内されてお茶をいただいた。国連系なのか民間団体なのか分からなかったが、事務所は机やソファも立派で、パソコンも置かれていた。この地域はタリバーンを倒した北部同盟の拠点、ひょっとしたら欧米など諸外国からの援助が手厚いのかもしれなかった。職能教室も併設されており、少女たちが裁縫の授業を受けていた。

アフガニスタン/マザルシャリフ市内
【アフガニスタン/マザルシャリフ市内】

 市民が憩う公園や、活気のある市場など、街歩きをしても楽しいマザルシャリフだったが、やはり最大の見どころはブルーモスク。名のとおり青いドームが鮮やかなモスクで、ムハンマドの娘婿アリーの聖廟とされていた。アリーはイラクのナジャフで暗殺されたが、その遺体ははるばるアフガニスタンまで運ばれ、この地に埋葬されたのだという。

 ナジャフでやはりアリーの廟を訪れたことがある僕にとって、どこまで本当の話なのかよく分からなかったが、中央アジアにまで広まったイスラム信仰の強さだろう。

アフガニスタン/マザルシャリフのブルーモスク
【アフガニスタン/マザルシャリフのブルーモスク】

 青や緑のタイル装飾、空色のドーム屋根、ずん胴なミナレット。インド様式が混じったパキスタンのモスクとも、同じタイル装飾を多用するイランのモスクともどこか異なる雰囲気があった。あまり聖地らしき賑々しさは感じられず、外壁のタイルは色褪せてくたびれているようにも見えたが、そこもまたアフガンらしさだ。

 敷地の園内は広々としており、のんびりと過ごす人々の姿があった。芸大卒だというゴッチンがタイル装飾の芸術性と技術の高さについて解説してくれたが、僕にはさっぱりだった。

アフガニスタン/マザルシャリフのブルーモスク
【アフガニスタン/マザルシャリフのブルーモスク】

 モスクの中に入ろうとすると、僕はよいが、ゴッチンはだめだと言われた。なぜだと聞きたくても理由は分からない。異教徒がだめというなら僕もだめなはずであり、女性がだめだというなら現地の女性たちが入場していることの説明がつかなかった。

 モスクの外観は青や緑の寒色系でまとめられていたが、一転して廟内は赤や橙を基調とし、圧される空気の重さがあった。中央に柩が鎮座し、人々が敬虔な祈りを捧げていた。見たがりのくせに、やっぱり僕はその雰囲気が苦手だった。

 シャルワールカミースを着て、頭にも布を巻いて髭面で、現地人に似せた恰好をしていたが、僕は決してムスリムではない。一神教なんかごめんだと思っている異教徒である。この聖なる場でそのことがばれたら袋叩きにあうのではないか、そんなことを考え、必死に祈る信者の姿勢に申し訳なくなって、僕はそそくさと隅っこで小さくなっていた。

アフガニスタン/アフガニスタン縦断、一路南へ
【アフガニスタン/アフガニスタン縦断、一路南へ】

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 インド バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着
02 15 アンナプルナ内院、標高4000メートルに到達
20 ポカラ~タンセン間
28000
26 インド 自転車にて再々入国(ネパールガンジ)
03 02 仏教八大聖地巡礼達成
03 ビワール先
29000
07 再び、デリー到着
12 パキスタン 自転車にて再入国(ラホール)
24 アフガニスタン 車にて入国(ジャララバード)
25 カブール到着

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