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自転車世界一周の旅/第129話 国境で警備兵と昼食、アフガニスタンの旅始まる


 ペシャワールから国境のハイバル峠までは、タクシーをチャーターする。六百ルピー(千二百六十円)で交渉が成立した。途中所定の警察事務所を訪れ、部族地区の入域許可証を呈示すると、護衛の兵士が同乗した。

 ペシャワールを出てしばらくは町が続いたが、やがて検問所があった。

 パキスタン・イスラム共和国
(Islamic Republic of Pakistan)
 アフガニスタン
(Afghanistan)

パキスタン/ハイバル峠の入口
【パキスタン/ハイバル峠の入口】

《許可なき外国人立入禁止》の立て札。

 そこから景色ががらっと変わった。未舗装の上り坂。緑の少ない荒涼とした丘を、くねくねと狭い道は上っていく。集落はあり、レンガと土壁で造られた砂色の家並が続いた。車窓から見る限り、特に変哲のない風景だ。しかし、この道を一歩外れると、そこはパキスタンの法律が通用しない自治区。銃や麻薬の売買も、自由に行われているという話だ。

 やがてハイバル峠。峠を越えて、坂を下ったところに国境線があった。中央アジアと南アジアを結ぶ要衝の地であるが、峠が国境でないのは、かつてこの地域を巡ってロシアと覇を争ったイギリスの戦略の名残らしい。

アフガニスタン/パキスタンとの国境ハイバル峠
【アフガニスタン/パキスタンとの国境ハイバル峠】

 薄曇の空だった。黒と赤と緑の三色の国旗がはためいていた。砂埃を巻きあげて、ときおり車が通過していた。歩行者の往来もあった。突然怒鳴り声が聞こえ、悲鳴が混じった。深緑色の制服を着た国境警備の兵士が杖を振りあげ、数名の男たちを追いたてていた。

 タクシーはここまで。混沌殺伐とした国境線を、僕たちは歩いて越えた。擦り切れるような痺れるような緊張感があった。こんな国境越えは久しぶりだった。

 ゴッチンは黒チャドルを着こなせずいらついていた。僕の青いシャルワールカミースは、だぶだぶした仕立てで動きやすかった。前方を見れば、褐色の山並が続いている。でこぼこの舗装がまっすぐに伸びている。背後のパキスタンが、安穏として平和な国であったように思えた。

「写真を撮ってもいいですか」

 国境の上で僕は慎重に尋ねた。立派な顎髭を生やしたアフガニスタンの軍人はにっこりと笑い、俺を写せと仕草で示した。たちまち数名の軍人が集まってきた。

「チャイを飲んでいかないか」

 一人が英語で言った。国境脇には国連の施設らしき建物と並んで、国境警備隊の詰所があった。僕たちは小さな庭のあるその詰所に招かれた。洗濯物が風になびき、のんびりした生活感が感じられてなんだか不思議だった。

アフガニスタン/パキスタンとの国境ハイバル峠
【アフガニスタン/パキスタンとの国境ハイバル峠】

 詰所の中は絨毯敷きの広々とした部屋になっていた。部屋の隅にテーブルが置かれ、壁には大統領とおぼしき人物の写真やこの国の国旗が飾られていた。僕とゴッチンは絨毯の上に並んで座った。両側に、向かいに、軍人たちが腰を降ろした。

 まもなく食事が運ばれてきた。チキン、ビーフピラフにまん丸のナン、緑茶(アフガンは緑茶文化圏なのだ!)にペプシ缶もついたなんとも豪華な昼食だった。チャイだけのはずが食事になる。それが当然のような彼らのもてなしだった。

 僕たちはまだ、この国の入国手続を行っていない。パキスタンの出国手続を済ませたあと、どこの国にも属していない宙ぶらりんの状態だった。なのに飯を食おうとしている。おかしかった。楽しくなりそうな予感がした。

アフガニスタン/国境警備兵と昼食
【アフガニスタン/国境警備兵と昼食】

 ようやく入国手続を済ませ、僕たちは晴れてアフガニスタンの大地を踏みしめた。石を積み上げ材木を組み合わせただけの簡素な小屋が、砂利道の両側に並んでいた。食料品や日用品が売られていた。学校の制服なのだろうか、明るいオレンジ色の服を着た少年たちが歩いていた。こんなところにも子供たちがいる。僕たちを少しほっとさせた。

 さらに歩いていくと、何台もの車がひしめき客集めをしていた。ほとんど全ての車が、古びたハイエースとカローラ。カローラは四人乗りであり、料金が高い。ハイエースは二十人近く詰め込まれるぶん安い。

 僕たちはハイエースを選んだ。パキスタンルピーが通用し、ジャララバードまで一人五十ルピー(百九十円)だった。国境を越えてきた乗客たちを集めて、満員になったところで出発となった。

アフガニスタン/東部の都市ジャララバード
【アフガニスタン/東部の都市ジャララバード】

 車窓の景色はパキスタンとは明らかに違った。インダスの恵みに育まれたパキスタンの平野部は緑の色が濃く、鬱蒼とした低地の空気があった。砂埃をたててハイエースが走る道は、壮大な高原を抜けていく道だった。視界はぐんと広く、淡緑の草原が続く遥か向こうに青い山並みが見えた。ときどき集落があり、麦畑の広がるのどかな風景があった。

 かと思うと、窓越しに破壊された戦車の残骸が見えた。なにやら器具を用いて地面を探査している人たちがいた。たぶん地雷の撤去作業だろうと思われた。

 狭いハイエースの中で隣の男が話しかけてきたが、言葉はさっぱり分からなかった。

アフガニスタン/東部の都市ジャララバード
【アフガニスタン/東部の都市ジャララバード】

アフガニスタン/東部の都市ジャララバード
【アフガニスタン/東部の都市ジャララバード】

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
11 03 インド プシュカル先
26000
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
16 ナーランダ付近
27000
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着
02 15 アンナプルナ内院、標高4000メートルに到達
20 ポカラ~タンセン間
28000
26 インド 自転車にて再々入国(ネパールガンジ)
03 02 仏教八大聖地巡礼達成
03 ビワール先
29000
07 再び、デリー到着
12 パキスタン 自転車にて再入国(ラホール)
24 アフガニスタン 車にて入国(ジャララバード)

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