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自転車世界一周の旅/第106話 エロ彫刻、石窟寺院、十字架の町


 僕はバラナシを三日で出た。自転車を預かってもらうからには、一週間くらい滞在するのが礼儀だとは思ったが、早々に脱出したかった。ザックを背負った旅。久しぶりの感覚だった。

 インド
(India)

インド/カジュラホ遺跡
【インド/カジュラホ遺跡】

インド/カジュラホ遺跡
【インド/カジュラホ遺跡】

 まずカジュラホを訪れた。十世紀前後に栄えたチャンデーラ王朝の寺院建築が残る遺跡の村。ヒンドゥ教には男女の交合や性愛の力に神秘的なエネルギーがあると見なす信仰形態があり、それを具象化したエロ彫刻で有名だった。

 腰をくねらして踊っている程度のものが大半だったが、ごく一部、そのものズバリの彫像があった。ナニとナニが合わさっていたり、ひっくり返ってナニしていたり、あろうことか動物たちとナニしていたり。後の時代にここを攻めたイスラム勢力によって、多くの寺院は破壊されてしまったというが、必然なような、残念なような……。

インド/インドの定食ターリー
【インド/インドの定食ターリー】

インド/カジュラホのジャイナ教寺院
【インド/カジュラホのジャイナ教寺院】

 離れたところにはジャイナ教の寺院群があった。ジャイナ教は仏教と同時代、ヴァルダマーナによって開かれた禁欲の宗教である。無殺生、無所有を是とし、その極みが着るものすら持たない空衣派、すなわち空気をまとう素っ裸の人たちであるという。さすがにここで空衣派の人に出会うことはなかったが、ギリシアのダビデ像が直立したような立像が寺院の中央に直立し、異彩を放っていた。

インド/サーンチ遺跡
【インド/サーンチ遺跡】

インド/サーンチ遺跡
【インド/サーンチ遺跡】

 次に訪れたのはサーンチ。紀元前三世紀、アショカ王の建立したお椀型の仏塔ストゥーパが残る。

 意外だったのは、賑わっていたカジュラホに比べ、サーンチは店もろくにない田舎の閑村だったこと。スリランカからの団体客がいたほかは観光客も少なく、駅前通りも、その脇の市場も静かで、土産物屋が並ぶでもなく、歩いていて声をかけられることもない。インドにもこんな落ち着いて観られる遺跡があるのだと、新鮮に思った。

インド/アジャンタ遺跡
【インド/アジャンタ遺跡】

インド/アジャンタ遺跡
【インド/アジャンタ遺跡】

 続いてアジャンタ、およびエローラの石窟寺院を巡る。サーンチから一転、こちらは旅行者に溢れていた。しかし、木と紙の文化である日本に生まれた血だろうか、僕は石窟遺跡に弱い。仏教、ヒンドゥ教、ジャイナ教と、三つの宗教が混在した伽藍群に、ただただ圧倒された。

 とりわけエローラ遺跡の中心、カイラーサナータ寺院は、岩山を丸ごと一つ繰り抜いて建造したという巨大さで、僕を久しぶりに痺れさせた。スケールの大きさからはペトラを彷彿としたが、宗教や世界観が違うから、見た目の印象はまたがらりと異なる。僕は日暮れて辺りが夕闇に包まれるまで、寺院を見下ろせる丘の上にぼんやりと座りこんだ。そうしている自分が、とても心地よかった。

インド/エローラ遺跡
【インド/エローラ遺跡】

インド/エローラのカイラーサナータ寺院
【インド/エローラのカイラーサナータ寺院】

 列車やバスを乗り継ぎ、連日世界遺産を訪れる旅は、悪くなかった。列車は足の踏み場もないほどぎゅう詰めだったり、夜行バスは路面の悪さとぼろい車体のお陰で、まるでジェットコースターに乗り続けているかのように安眠できなかったが、それでも幾日もひたすら荒野を自転車で駆ける旅に比べればずっと楽だった。ガンジャ漬けの沈没者たちに囲まれて腐るよりも、断然マシだった。

 僕はまだ自分の中に、知らない町を訪れ、その土地の文化や歴史に触れることを喜ぶ気持ちが残っていることに気づき、ほっとした。

インド/エローラ遺跡
【インド/エローラ遺跡】

インド/長距離バスターミナル
【インド/長距離バスターミナル】

*   *   *

 青い海。熱帯の太陽。かつてポルトガルの植民地だったゴアに来た。北インドは昼間でも涼しい季節になろうとしていたが、ここまで南に来ると、常夏の暖かい風が吹いていた。

 ゴアの州都パナジは今までのインドの町とはまるで雰囲気が違った。市バスに乗れば、いつものヒンディ音楽ではなく聞き覚えのある西洋音楽が流され、シヴァやガネーシャといったヒンドゥ教の神々の代わりにキリストの絵が壁に貼られていた。泊まった宿の庭には小さな十字架が建てられていた。

インド/ゴアのアンジュナビーチ
【インド/ゴアのアンジュナビーチ】

インド/ゴアで宿泊した宿
【インド/ゴアで宿泊した宿】

 ビーチから少し離れた内陸部に、オールドゴアと呼ばれる一画があった。見上げるような巨大な教会群が、広場や道路を挟んで林立していた。そのうちの一つボム・ジェズ教会は十六世紀の建造、日本にも来たフランシスコ・ザビエルの遺体が安置されている。

 パナジの南方には、ヴァスコ・ダ・ガマ市という名前の町があった。もし日本が植民地化されていたら、九州のどこかにフランシスコ・ザビエル市が生まれていたかもしれない。ザビエルの棺を眺めながら、僕は妙な連想をした。

インド/オールドゴアのカテドラル
【インド/オールドゴアのカテドラル】

インド/ザビエルが眠るボム・ジェズ教会
【インド/ザビエルが眠るボム・ジェズ教会】

 夕方、僕はビーチに戻った。観光地としてのゴアはヒッピー文化の栄えた地として有名である。店の看板は英語ばかりで、泳いでいるのも白人が多くて、本当にここはどこだろうという感じがしたが、サリーを着たまま海に入っているインド人女性がいたり、白い砂浜で寝そべっている牛たちがいて、一応ここもインドだと分かる。

 西の水平線に沈みゆく夕陽を、僕は牛たちと一緒に眺めた。

インド/ゴアのカラングートビーチ
【インド/ゴアのカラングートビーチ】

出発から26593キロ(40000キロまで、あと13407キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
05 26 トルコ 旅立ち1周年 南アフリカから飛行機にて入国
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
19 アーベイェク市内
21000
09 06 ヤズド~メフリーズ間
22000
16 パキスタン 自転車にて入国(クイ・タフタン)
17 クイ・タフタン先
23000
27 デラ・アラー・ヤル付近
24000
10 07 ラホール到着
19 ワガ国境
25000
19 インド 自転車にて入国(アムリトサル)
25 デリー到着
11 03 プシュカル先
26000
09 ムンバイ行きの夜行列車で自転車が壊される

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