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自転車世界一周の旅/第90話 捕まれば杖打ちの刑、アルコール調達大作戦


 観光客が多いイスファハンは、少々治安が悪い。

「バイクの引ったくりに遭っちゃった」

 チエさんという女性旅行者が、鞄ごと数メートル引きずられてしまったと、擦れたチャドルの裾を払いながらぼやいていた。

 イラン・イスラム共和国
(Islamic Republic of Iran)

イラン/イスファハンのアルメニア人地区
【イラン/イスファハンのアルメニア人地区】

 また別の日、今度は僕がニセ警官に遭遇した。真っ昼間、表通りで車から呼びかけられたのだ。助手席の男が身分証もどきを窓から出して、「ポリス」と一言。検査と称してパスポートや財布を出させ巻き上げるという魂胆だ。

(そうはいくか)

 にらみつけ向かっていくと、僕の目つきから無理だと悟ったのか、エンジンを噴かして早々に逃げ去っていった。こういった犯罪の傾向や対処法は、旅を重ねるごとに蓄積されていく。グアテマラで強盗に遭った頃の僕だったら、見抜けず引っかかっていたのかもしれなかった。

イラン/ザーヤンデ川に架かるのハージュ橋
【イラン/ザーヤンデ川に架かるのハージュ橋】

 一方情報ノートには、禁制品のお酒が手に入るという気になる噂が記されていた。よく知られているとおり、イスラムは飲酒を禁じている。しかしトルコでもエジプトでも、実際には酒屋があり、酒が売られていた。イラクですらビールやワインが手に入った。情報ノートには、闇で酒を売っているという店の場所と、経営者が禿げおやじであるという手掛かり、そして万が一警察に捕まると杖叩きの刑に処されるという、脅し文句が書かれていた。

 僕はロンゲくんや童顔くんを誘い、四人でその店の場所を探した。ことさらに飲みたいというよりは、話のネタにしたいという興味があった。まもなくそれらしい店は見つかった。たしかに禿げたおやじさんが店に立っていた。しかし、グラスを口元に寄せる仕草で訴える僕らに、おやじはぶっきらぼうな「ノー」を返した。

「あの店じゃなかったのかなあ」

 ぶつくさ言いながら僕らは宿に撤退した。だが、情報ノートを改めて読み直すと、さっきの店以外に考えられなかった。

「人数が多すぎたかもしれない」

「ほかのお客もいましたしね」

 一時間ほどつぶし、夜の十一時、今度はロンゲくんと二人で、再び店を訪れることにした。人通りは少なく、店内にほかの客もいなかった。禿げおやじは僕らを一瞥し、(また来たのか)という顔をした。そして僕らに対し、「ビールか、それともウォッカか」と訊いた。本当に売っていたのだ!

イラン/イスファハンの目抜き通り
【イラン/イスファハンの目抜き通り】

「ビール」

「二万リアル」

 とっさに(高い!)と思ったが、ここで引くことはできなかった。僕が代金を渡すと、おやじはそそくさと引き出しにしまった。

「五分後にまた来い」

 僕はロンゲくんと顔を見合わせ、いったん店を出た。お金だけ渡して商品を受け取らないなんて通常はありえないが、ここは信用するしかなかった。

「まるで麻薬の取引みたいだな」

 僕らはそう言いながら、その実、この国ではアルコールが麻薬と同じ扱いであることをはたと想起し、納得した。五分後、店内に戻った僕らに、おやじは黒いビニール袋を手渡した。中には缶ビールらしき物が入っている。僕はあらかじめ用意しておいた鞄にそのまま放り込んだ。禿げおやじも、(それでいい)という表情をした。

 僕らは一仕事を成し遂げた気分で、宿に戻った。階段を上り、部屋に入り、扉を閉めて、ようやく鞄から黒いビニール袋を取り出すことができる。イラン人旅行者も宿泊しているこの宿では、宿の中とはいえおおっぴらに酒を取り出すわけにはいかなかった。

 缶ビールの銘柄はトルコ産のツボルグ。トルコでは百円以下で買える物が、ここでは約三百円。しかもぬるい。

「まあ、話のネタとして買ったんだからいいんだ」

 僕は言った。混み合う六人部屋で、ひっそりと飲み交わした。そしてアフガニスタンについての話題になった。

イラン/宿の一室にて
【イラン/宿の一室にて】

 去年の十月、僕がイタリアにいた頃にアメリカが空爆を始めた。以来九ヶ月、新政権が樹立されてまもないアフガニスタンには、すでに旅行者が入り始めていた。

「ペシャワールかクエッタで観光ビザがとれますよ」

 その幼い顔だちに似合わず、童顔くんはアフガン経験者だった。今日の午後やって来た山形訛りの男性も、アフガン経由でイランに入国したのだと言った。

「けっこう今、旅行者入ってますよ」

(アフガンか……)

 僕は彼らの話に聞き入った。『深夜特急』で有名な沢木耕太郎は、かつてパキスタンからアフガンを抜けてイランに至るという旅行経路をとった。首都カブールは当時、ヒッピー天国と呼ばれていたのだ。

「アフガン、行って下さいよ」

 童顔くんは言った。僕は「上級者」だ。だから当然アフガンには興味がある。行きたいと思っているはず。危険だからとためらったりはしないだろう。そう確信しているかのような口ぶりだった。

イラン/イラン中南部の都市、シーラーズ
【イラン/イラン中南部の都市、シーラーズ】

出発から21605キロ(40000キロまで、あと18395キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
03 15 ケニア 赤道通過
04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
21 ボツワナ ディノクエ~ディベテ間
16000
05 01 南アフリカ ブリッツタウン~ビクトリアウエスト間
17000
09 最南端アグラス岬到達
12 ケープタウン手前
18000
26 トルコ 旅立ち1周年 飛行機にて入国(イスタンブール)
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
28 アクダーマデニ先
19000
08 09 イラン 自転車にて入国(マクー)
10 マクー~マルカンラル間
20000
19 アーベイェク市内
21000
19 テヘラン到着

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