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自転車世界一周の旅/第76話 旅立ちから丸一年、まだ折り返し地点なのだ


 ケープタウンは、アフリカ南部を旅するバックパッカーにとっての一大拠点であり、南北に市街を貫くロングストリートに沿って何軒もの安宿が集まっていた。僕が泊まったキャットアンドムース・バックパッカーズも、ドイツやオランダなど各国の旅人で賑わっていた。

 アフリカの旅を終えた僕は、トルコに戻ろうと決めていた。中東へちょっと寄り道のつもりがいつの間にか南アまで来てしまったが、いよいよ後半戦はアジア横断、日本を目指して走るのだ。

 ケープタウン到着後、早速旅行会社を訪れた僕だったが、しかし格安のトルコ航空は週二便、しかもキャンセル待ちで二週間近くも足止めを食らうことになった。

 南アフリカ共和国
(Republic of South Africa)

南アフリカ/ケープタウン市街
【南アフリカ/ケープタウン市街】

 昼間は極力手ぶらで市内を散歩した。碁盤の目に区画された街路に沿って、整然とビルが建ち並ぶ中心街。ケープタウンは国会議事堂が置かれる立法府であり、スーツ姿のビジネスマンの姿も多い。ふと立ち止まれば、そんな大都会のどこからでもテーブルマウンテンを仰ぐことができた。

 一転して鉄道駅とバスターミナルの周辺は、猥雑さに満ちていた。Tシャツや民芸品を売る露店が並び、黒人やカラードのおじちゃんやおばちゃんが、威勢良く客引きの声をあげていた。

南アフリカ/ケープタウンの鉄道駅
【南アフリカ/ケープタウンの鉄道駅】

 繁華街を歩く限りは、さほど怖さを感じることはなかったが、それでも一歩裏道を覗けば、貧しく座り込んでいる人たちの姿を多く見かけた。治安は決して良好ではなく、知り合った日本人女性は、市内でひったくりに遭い、パスポートを奪われてしまったのだと嘆いていた。

 また、宿でCNNを見ていると、インドとパキスタンの国境で撃ち合いという不穏なニュースを報じていた。アメリカが今度はイラクを攻めるという噂もあり、今後の旅の行く末が気になった。僕らは浮世離れした旅人であるが、決して世界情勢と無関係ではないのだ。

 一緒の部屋にいたツジオカさんは、日本を出て二年、次はブエノスアイレスに飛ぶのだと言っていた。「上着を買わないといけないな」と、冬のアルゼンチンの寒さを警戒していた。

(そうか。ここから南米へ飛ぶ方法もあるのか)

 ふと、そんな思いが僕の脳裏をかすめた。

南アフリカ/ケープタウンの宿にて
【南アフリカ/ケープタウンの宿にて】

*   *   *

 二〇〇二年五月二十五日夕刻。僕はケープタウンを発ち、イスタンブールへ向かった。日付が変わって二十六日は、この旅が始まってちょうど一年目の記念日だった。

《私は今問題を抱えているの。ハヤクキテヨ》

 コンヤペンションのエリフから元気のないメールを受け取っていた。

《エリフはプライドばかり高くて、日本人をバカにしている》

 サファリホテルのホームページには、彼女を非難するノブさんの書き込みがあった。呼応するように何人かの日本人旅行者が、《コンヤはもう泊まらないほうがいいな》とか、《コンヤペンションを制裁しよう》などと書き連ねていた。僕はにわかには信じられなかった。

南アフリカ/ケープタウン市街
【南アフリカ/ケープタウン市街】

 半年前、イスタンブールのスタジアムで日の丸を振ったことが回想された。グアテマラで強盗に遭い、中米から欧州に逃げ、行き先を迷っていた僕に、再び旅のエネルギーを与えてくれたのは、紛れもなくあの宿だったからだ。

 機内のモニター画面は、アフリカの地図を映し出していた。南端のケープタウンから伸びた飛行経路を示す線は、ルサカの上空を越え、ナイロビを横目に、アディスアベバを通過し、まもなく未明のカイロに到達しようとしていた。地中海を飛び越えればイスタンブールだ。

 半年をかけて這ってきた陸地を、飛行機は一晩で一気に飛び越えていく。

南アフリカ→トルコ/アフリカ・中東を越えて
【南アフリカ→トルコ/アフリカ・中東を越えて】

 僕はゆっくりとトルコ以来の道のりの記憶を辿った。ハヤシくんは僕より早くケープタウンに達し、今はインドにいた。ユーシさんは南アまで来ていたが、すれ違いで会うことはできなかった。ジュノンは僕が行かなかったジンバブエのハラレで沈没しているようだった。すでに帰国している旅仲間も多かった。

 自宅で、駅舎で、あるいは店の軒先で、一夜の寝床を提供してくれた大勢の「友人」たちのことも思い出された。一生飛行機になど乗ることがないかもしれない彼らの頭上を、今瞬時に通過しているのかと思うと、やるせなさで胸がいっぱいになった。

 中東もアフリカも、僕に旅することの楽しさ、一期一会の素晴らしさを教えてくれた。彼らのお陰で、僕の旅は二年目に突入する。

 旅はまだ続く。まだ折り返し地点なのだ。

南アフリカ地図

出発から18046キロ(40000キロまで、あと21954キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
03 15 ケニア 赤道通過
04 03 ザンビア 鉄道にて入国(ルサカ)
09 ジンバブエ 自転車にて入国(ビクトリアフォールズ)
10 ビクトリアフォールズ先
15000
18 ボツワナ 自転車にて入国(フランシスタウン)
21 ディノクエ~ディベテ間
16000
25 南アフリカ 自転車にて入国(マフィケン)
05 01 ブリッツタウン~ビクトリアウエスト間
17000
09 最南端アグラス岬到達
12 ケープタウン手前
18000

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