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自転車世界一周の旅/第69話 雨に打たれて感じる圧政国家の優しさ


 世界三大瀑布の一つビクトリア滝は、ザンビアとジンバブエの国境上に位置し、現地の言葉ではモシ・オア・トゥンヤと呼ばれている。僕はザンビア側から見学した。

ザンビア/ビクトリア滝上流
【ザンビア/ビクトリア滝上流】

ザンビア/ビクトリア滝周辺の猿の親子
【ザンビア/ビクトリア滝周辺の猿の親子】

 雨期の終わりのため水量が多く、辺りはものすごい水煙がたちこめていた。入口付近では傘の貸し出しがあり、最大幅千七百メートルの巨大滝に近づけば、晴れているのにまるで土砂降りのように、水滴が地面に叩き付けられていた。

ザンビア/ビクトリア滝
【ザンビア/ビクトリア滝】

ザンビア/ビクトリア滝
【ザンビア/ビクトリア滝】

 ザンビア共和国
(Republic of Zambia)
 ジンバブエ共和国
(Republic of Zimbabwe)

ザンビア/ビクトリア滝
【ザンビア/ビクトリア滝】

ザンビア→ジンバブエ/滝に架かる国境の橋
【ザンビア→ジンバブエ/滝に架かる国境の橋】

 そしてジンバブエ入国。大統領選の余波が心配されたが、国境事務所は何事もなかったかのように機能しており、その場でビザが支給された。

 ジンバブエは一九八〇年に独立したアフリカでも比較的新しい国。僕が生まれた頃は、白人中心のローデシア共和国として世界地図に記されていた。白人政権を倒し、黒人中心の政治体制を確立した指導者がムガベであり、独裁者だと非難されつつ、現在も大統領職を続けているというわけだ。

ジンバブエ/ジンバブエ入国
【ジンバブエ/ジンバブエ入国】

 国境を越えてすぐの、ジンバブエ側のキャンプ場に僕は宿泊した。旅行者は著しく減っているようで、観光に来ているのは、黒人富裕層か、もしくは現地在住とおぼしきキャンピングカーの白人ばかり。ザックを背負ったバックパッカーの姿は見受けられなかった。

「治安は問題ない。約束する」

 管理人のおじさんは、僕の問いに答えて言った。余計な心配をせず、みんな来てほしいという本音が透けて見えた。

ジンバブエ/ビクトリアフォールズの町
【ジンバブエ/ビクトリアフォールズの町】

 町を歩いていると、ツアーガイドや両替屋、麻薬の売人までが、よほど商売あがったりなのだろう、入れ替わり立ち替わり現れては話しかけてきた。インフレがひどいジンバブエでは、闇両替が横行している。表に出ている看板には一ドル=五十五ジンバブエドルと書かれていたが、実際に店内で尋ねると、「二百八十」という答えが返ってきた。

 また両替屋の中に一人、なぜか韓国の一万ウォン札(約千円)を持っている者がいた。処分に困っていたらしく、「これはいくらなんだ?」と訊いてきたので、適当にごまかし、余っていた二万六百六十クワッチャ(約六百円)と交換してあげた。

*   *   *

ジンバブエ/第二の都市ブラワヨへ
【ジンバブエ/第二の都市ブラワヨへ】

 翌日から、いよいよジンバブエを走る。西部の中心都市ブラワヨを目指す道のりだ。

 ひたすら大自然の中の道。手工芸の土産物露店がちらほら建っているだけで、まともな集落もない。象や鹿の絵をあしらった注意標識を見かけたが、残念ながら実際に出会うことができたのは、猿の群れだけであった。

ジンバブエ/象注意の標識
【ジンバブエ/象注意の標識】

 百キロほど走ってから先、集落が点々と続くようになる。途中五キロほど自転車で並走することになった男デビッドに誘われ、ディンデという町で、彼の働いている病院の屋内に泊めてもらえることになった。

「EUの援助で建てている病院で、エイズ対策に力を入れているんだ」

 デビッドは医者というわけではなく、病院に調理用の油を運ぶことを仕事にしているようだった。病院は一部建設途中で、水道は通じているが電気はなく、がらんどうの部屋に寝袋を敷いて寝ることになった。しかし、余計な気兼ねの必要がなく、返ってくつろげた。また夕方から雨が降り始めたため、屋根があるだけでも大感謝であった。

ジンバブエ/ディンデの病院
【ジンバブエ/ディンデの病院】

ジンバブエ/ディンデの町
【ジンバブエ/ディンデの町】

 季節は雨期が終わり、乾期のはず。なのに翌日以降も冴えない天気が続いた。ドレッドヘアにタオルを巻き、雨に打ちつけられながら走ることになった。困ったことに、僕は合羽を持っていなかった。グアテマラで自転車と一緒に合羽を盗られ、以来雨具は小さな折り畳み傘しかなかったのだ。

 深く木々の茂った林の中の道が続いた。町と町の間隔は遠く、雨宿りできるような休憩場所もなく、パンツの中まで濡れそぼった。

ジンバブエ/雨に降られつつ休憩
【ジンバブエ/雨に降られつつ休憩】

 ブラワヨまで五十キロというところ。時刻は夕方で、雨はまだ降り続いていた。やっと集落が現れ、野菜を売っている小屋があった。その向こうに農場らしき建物群があった。青い作業衣の男たちや、掃除や雑用をこなしている女たち、十数人が働いていた。どこか雨のしのげるところでテントを張らせてもらえばいい。そう思って従業員に尋ねたところ、出てきた農場主はインド系のおじさんだった。

 ここらでは相当なお金持ちになるのだろう。案内された四十畳くらいの巨大な部屋が居間と食堂と応接を兼ねていて、動物の剥製やアジア的な絵画が飾られていた。ヘビースモーカーの奥さんと、四歳くらいの男の子、そして筆頭従業員の男性二人と一緒に、カレーを御馳走になった。それどころか、離れの寝室を用意され、僕はひたすら恐縮だった。

 治安の心配どころか、アフリカの優しさが心に染みた。

ジンバブエ/農場主のお宅にて
【ジンバブエ/農場主のお宅にて】

出発から15380キロ(40000キロまで、あと24620キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 17 スーダン ゴタ~ガラバート間
12000
03 11 エチオピア ヤベロ~ドブロワ間
13000
13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過
24 タンザニア 自転車にて入国(ナマンガ)
28 サーメ~モンボ間
14000
04 03 ザンビア 鉄道にて入国(ルサカ)
09 ジンバブエ 自転車にて入国(ビクトリアフォールズ)
10 ビクトリアフォールズ先
15000

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