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自転車世界一周の旅/第68話 ザンビア駅寝街道~ラスタマンが往く


 ザンビアを走る四日間は、体調の回復もあって楽しい日々だった。標高千三百メートル。再び涼しい高原の風が吹く。

 ザンビア共和国
(Republic of Zambia)

 アフリカというと、灼熱の砂漠、果てしないジャングル、いまだ未開の動物王国が広がっているというイメージがあるが、それはごく一面的な先入観でしかない。幹線道路の舗装状態は良く、町を訪れれば西洋式のスーパーがあって生活物資はなんでも揃い、田舎であってもガソリンスタンドや売店はあったから、チャリダーにとって困ることは特になかった。英語が通じやすいということも、旅のしやすさという点では大きかった。

ザンビア/バトカで出会った若者たち
【ザンビア/バトカで出会った若者たち】

「ラスタマン!」

 ペダルをこいでいると、僕はよく沿道からそう呼びかけられた。どうやら僕がドレッドヘアをしているためのようであった。何度かシャワーを浴びるたびに毛糸がほつれ始めていたが、いい感じに柔らかく、頭に馴染んできてもいた。

 ラスタマンとは、カリブの国ジャマイカで始まった黒人のアフリカ回帰運動の中で生まれた言葉であり、エチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシエ一世の即位前の名前ラス・タファリに由来する。白人支配を免れていたエチオピアで一九三〇年に即位したハイレ・セラシエは、二十世紀の前半に巻き起こった黒人民族運動のさなか、黒人を解放する「神(ジャー)」として、熱狂的に支持されたのだという。

 ラスタの思想はのちにレゲエ音楽に受け継がれ、ボブ・マーレーがその代表とされる。そしてレゲエを象徴するファッションがドレッドヘアであり、元々は白人社会への反抗を示していたそうだ。

 アフリカ各国を旅していると、実際は短く刈り込んだ坊主頭が多く、長髪ドレッド頭はごく少ない。東洋人の僕がドレッドヘアで、しかも自転車など乗っていると、相当に目立つのだろう。しかし、みな好意的に「ヘイ、ラスタマン」と呼びかけてくれるので、決して悪い気はしなかった。

ザンビア/ザンビア西部へ
【ザンビア/ザンビア西部へ】

*   *   *

 そんなアフリカ中南部で最大の問題は、宿をどうするかということだった。ケニアやタンザニアには現地人向けの安宿がどこの村に行ってもあった。首都ルサカには外国人旅行者向けのゲストハウスがあった。ザンビアの田舎町ではそのどちらも期待できなかった。あるのは値の張るホテルだけだった。

 僕はまず警察をあたった。その敷地内にテントを張らせてもらえないか頼んだのだ。待たされた挙げ句、答えはノーだった。

ザンビア/ジンバという町
【ザンビア/ジンバという町】

 次に僕が訪れたのは駅だった。駅にテントを張らせてもらえないか頼んだ。日本国内の無銭旅行では、駅寝というのは有効な方策の一つであり、それをザンビアでも試みようとしたのだ。答えはイエスだった。

 ザンビアの鉄道駅は、そのまま駅員や警備員たちの生活空間になっていた。家族や友人らしき人々が集まってきて、僕を歓迎してくれた。夕食まで御馳走になった。

ザンビア/バトカの駅員たち
【ザンビア/バトカの駅員たち】

 スワヒリ語でウガリと呼ばれた白い餅のような主食は、ザンビアではシマと呼ばれていた。シチューのような煮込み料理をかけて食べるのが普通だが、ヨーグルトとシマという組み合わせがあった。少し躊躇したが、これまた食い合わせの妙と言うべきか、意外に美味しかった。

「ファルンバ」

 ボンウェルに唯一習ったトンガ語のお礼の言葉が役に立つ。

ザンビア/ザンビアの主食シマ
【ザンビア/ザンビアの主食シマ】

 駅には入れ替わりいろんな人がやって来る。「どこで寝るんだ?」と訊かれ、「そこに僕の小さな家があるだろう」とテントを指し示すと決まって爆笑された。

 僕は一冊の文庫本を持っていた。『緑の底の底』という題名の本で、南米のアマゾンが舞台の話だったが、アマゾンの密林の絵が表紙に描かれていた。漢字と仮名の混ざった日本語の文字が珍しいのだろう。彼らは見せてくれと言って手を伸ばしてきた。

ザンビア/ジンバの駅員たち
【ザンビア/ジンバの駅員たち】

「漢字は一つ一つが意味を持っているんだ」

 僕がそんな説明をすると、一人の男が表紙の絵をじっと見つめ、題名の一文字目を指差しておずおずと言った。

「じゃあ、これはグリーンかな?」

 周囲に苦笑いが伝染した。絵が緑色に塗られているだけじゃないかという笑いだった。

「正解だよ。この字は本当に『緑』という意味なんだ」

 どっと湧いた。名解答をなした男は、まるでサヨナラホームランを打ったあとのヒーローのように、みんなからどつかれていた。

 楽しく夜は更けた。ふと空を見上げれば、南十字星はもうかなり空の高い位置まで昇るようになっていた。

ザンビア/滝への拠点リビングストン
【ザンビア/滝への拠点リビングストン】

ザンビア地図

出発から14721キロ(40000キロまで、あと25279キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)
17 ゴタ~ガラバート間
12000
20 エチオピア 自転車にて入国(メタマ)
03 02 アディスアベバ到着
11 ヤベロ~ドブロワ間
13000
13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過
24 タンザニア 自転車にて入国(ナマンガ)
28 サーメ~モンボ間
14000
04 03 ザンビア 鉄道にて入国(ルサカ)

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