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自転車世界一周の旅/第62話 ナイロビ~世界で二番目の危険都市


 ナイロビ、ケニアの首都。およそ百年前、イギリスがここに統治の司令部を置くまでは、その場所は何もないただの草原地帯だったという。それが、今や高層ビルが林立し、世界中からビジネスマンが集まる人種の坩堝、東アフリカ随一の大都会となっている。

 ケニア共和国
(Republic of Kenya)

ケニア/ナニュキからナイロビへ
【ケニア/ナニュキからナイロビへ】

ケニア/サガナという町の宿
【ケニア/サガナという町の宿】

 南アフリカのヨハネスブルグに次いで、世界で二番目に危険だといわれるナイロビ。下町地区の治安の悪さは有名で、旅行者を狙った強盗犯罪は絶えない。明るい時間帯に手ぶらで歩いているならまだ安全。恐いのは荷物を背負っているとき、つまりナイロビに着いたときと出るときであると言われていた。日曜とあってシャッターを下ろしている店が多く、暇そうに座り込んでいる男たちの視線が油断できない。万一に備えて棒切れを振りかざしつつ、僕たちは下町の路地を疾走した。

 無事に辿り着いた安宿はニューケニアロッジ。ハヤシくんやエーちゃんと、アディスアベバ以来の再会を果たした。意外に多国籍な宿であり、ドイツ人やインド人、そしてドレッドヘアのケニア人も泊まっていた。

 ナイロビという街それ自体には大した見所はない。なにせ歴史のない町だ。それでも一週間の滞在を決めたのは、今後しばらく、落ち着いて長居できるような場所がないと予想されたからだ。

ケニア/ナイロビ突入
【ケニア/ナイロビ突入】

 昼間手ぶらで出歩く分には、ナイロビは普通の都会だった。宿の近くには野菜や果物を売る露店が並び、僕はよくそこでマンゴーを買った。その甘さに病みつきになった僕は、毎朝パンとマンゴーで朝食を済ますほどだった。

 安い食堂も多く、ハヤシくんやジュノンと、よく食べに出かけた。ケニア以南のアフリカで主食とされる食べ物はウガリ。トウモロコシなど穀類の粉をこねて作られるウガリは、ふわふわあつあつのお餅みたいで食べ応えがあり、シチューのような煮込み料理をかけて食べると美味しかった。

 ケニアの公用語はスワヒリ語。アラビア語と現地バントゥ系言語の混血といわれる言葉だが、英語も非常に通じやすかった。アラブ諸国では、食堂のおばさんや露店の兄ちゃんが英語を使えることなどまずありえなかったが、ケニアでは通じた。文字もローマ文字であり、その点では行動が楽だった。

 つい英語に頼ってしまうため、スワヒリ語はなかなか覚えられなかったが、冷たいを意味する「バリディ」だけは重要単語だった。食堂で売店で、冷たいジュースやビールが欲しかったら、必ず「バリディ」と言い、「バリディ」であることを確認しなくてはいけなかった。さもないとぬるいやつが出てくるのだ。

ケニア/ケニヤッタ大通り
【ケニア/ケニヤッタ大通り】

 街の中心部、ビルの十五階にある日本大使館には郵便の受け取り目的で赴いたのだが、渡された箱には六年も前の年賀葉書など、数十通がどっさりと放り込まれていた。なんらかの理由で受取人が現れなかった手紙が、未整理のまま残されているのだった。

 また別の日、宿からそう遠くない空き地で催されているマサイマーケットを訪れた。衣類や装飾品、絵画などの土産物が売られ、通常の買い物はもちろん、物々交換も可能であるというのが特徴だった。僕はエジプト以来着ることがなくなったジャンパーを処分しようと考えた。ギリシアのトリカラで、忍び寄る寒さに耐えかねて購入したジャンパーだ。

「ヨーロッパ製で、かなり品質のいいモノなんだ」

 僕はそううそぶいて、キリンの絵が描かれた民芸品調のシャツと交換した。

 みんな何がしか買っていたが、一番浮かれていたのはイーダさんだった。ぼさぼさ頭で、髭面で、ひょうきんな彼は、なんとマサイ族の槍と盾を買っていた。槍はたっぷり一メートルの長さ、盾も菱形で相応の大きさだった。長旅はまだまだ続くのに、そんなかさばる荷物をどうするつもりなのかと僕らは笑ったが、「戦闘力が上がったぜ! これで俺も勇者になれるかなあ」と、本人はいたって御満悦だった。

ケニア/マサイマーケット
【ケニア/マサイマーケット】

 そんなナイロビで、僕はドレッドヘアに挑戦することにした。同宿のケニア人が、知り合いの美容師を紹介してくれたのだ。イスタンブールで散髪して以来、四ヶ月伸ばしっぱなしの髪は、頃合いの長さになっていた。

 二人の女性美容師が、適当な分量の髪の毛を手に取り、毛糸を使いながら編み込んでいく。左右からぎゅっと引っ張られて、かなり痛い。蝋燭を使い、編み込んだ毛糸の先を焦がして固定する。

「すげえ、マジ似合うよ。かっこいい」

「やばいっすよ。絶対やばい。似合いすぎ。もはや日本人じゃないですもん」

 みんなの反応は上々だった。

ケニア/ドレッドヘアに変身
【ケニア/ドレッドヘアに変身】

出発から13477キロ(40000キロまで、あと26523キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)
17 ゴタ~ガラバート間
12000
20 エチオピア 自転車にて入国(メタマ)
03 02 アディスアベバ到着
11 ヤベロ~ドブロワ間
13000
13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過

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