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自転車世界一周の旅/第54話 黄砂の国、地獄列車二泊三日の旅


 青々とした水をたたえるナイルから一歩陸に上がると、荒涼とした黄砂の世界が広がっていた。白い衣装にすっぽりと身を包んだスーダン人たちが、大きな荷物を次々と陸揚げしていた。地理的にはエジプトの真南だが、メッカと同時刻にするため、プラス一時間の時差があるスーダン。

 午後三時、ワディ・ハルファ到着。太陽はまだ高く、暑い。

 スーダン共和国
(The Republic of the Sudan)

スーダン/ワディ・ハルファの港
【スーダン/ワディ・ハルファの港】

 ワディ・ハルファには、僕たちが普段道と呼んでいるような道はなかった。ただ砂漠の砂地があり、そこにいくつもの轍がつけられていた。僕たちは自転車を押し、荷物を抱えて、とぼとぼとその轍を辿った。

 港から小一時間ほど歩いていくと、やがて茶色い土壁の家並みがぽつぽつと現れた。数軒の宿と、食堂や商店、船客を迎える乗合バスや両替商たちが待っていた。

スーダン/ワディ・ハルファの道
【スーダン/ワディ・ハルファの道】

 宿は七百スーダンディナール。砂の床、土の壁、草を編んで組まれた天井。トイレは穴が一つあいているだけ。ナイルの水がかめに汲まれ、飲み水として使われていた。辛うじて電気は通っていた。

 僕たちは四人で一部屋を確保し、ほっと息をついた。ハヤシくんが殺虫剤をベッドの上に撒いていた。

 夜になると星空がきれいだった。オリオン座が高く、北斗七星が地平線すれすれに低かった。南十字星はまだ確認できなかった。

スーダン/ワディ・ハルファの宿
【スーダン/ワディ・ハルファの宿】

 翌朝、僕は昨日の夕食をとった食堂を再訪した。自分のスプーンを置き忘れてしまっていたのだ。旅先で失せ物が見つからないのは常識である。たぶんないだろうと思ってダメもとで尋ねたのだが、食堂のおじさんは探し回って見つけ出してくれた。

「お礼はいらないよ。これは義務さ」

 おじさんは答えた。なんとも飾り気のない笑顔だった。

「これがスーダン人の親切ですよ」

 ニシムラさんが嬉しそうに言った。

 スーダン人はとても人がいいと、僕らは聞いていたが、本当にそうだと思った。これから始まる、たやすくはないであろうアフリカの道のりに、希望が持てるような気がした。

スーダン/ワディ・ハルファの町
【スーダン/ワディ・ハルファの町】

*   *   *

 昼のうちに両替、鉄道切符の手配、および食料の買い出しを済ませ、夕方僕たちは駅へ向かった。

 駅といってもそこは砂漠のただ中。砂の上に線路が敷かれ、小さな駅舎がぽつねんと建っていた。簡素な屋根付きの水飲み場があった。プラットホームと呼べるものはなく、おびただしい数の人間が砂地の上に腰をおろして待っていた。山のような荷物が隣に置かれていた。敷物を敷いて、メッカの方角に祈りを捧げている人たちもいた。

スーダン/ワディ・ハルファの駅
【スーダン/ワディ・ハルファの駅】

 やがて列車が来た。誰が言い出したのか、俗に世界三大地獄交通機関の異名をとるこの列車。ワディ・ハルファから首都ハルツームまで、エジプトからの船に合わせて週一便の運行だ。およそ九百キロ、新幹線なら半日の道のりを、二泊三日かけてのんびりと走る。

 ニシムラさんとジュノンは二等を、ハヤシくんと僕は果敢にも三等車に挑んだ。三等車は日本でいう普通列車の形態で、四人掛けの狭いボックスシートが並んでいた。自転車は専用の貨物車に預けていた。

 座席指定の券だったにもかかわらず、座席の数以上の乗客がいた。詰めて座っていたり、通路に座っていたり、あるいは寝転んでいたりした。荷物の数も膨大で、座席下、通路、そして網棚の上に満載だった。大時化の海をゆく船のように列車が揺れ、棚の荷物が何回か寝ている僕の上に落ちてきた。

 二月という季節のお陰か、気候はまだましなのだろう。問題は絶えず車内に吹き込んでくる砂埃だった。開いた窓から、あるいは連結部から、砂が始終入ってきて、髪も顔も手も服も、そして喉も、砂でザラザラになった。

 ときおり列車は砂漠の真ん中に停まる。砂壁の家が並び、ロバに車を引かせ荷物を運んでいる人、木陰で寝転んで涼んでいる人、そしてやかんを抱えてチャイを売りに来る子供たちがいた。

スーダン/途中の駅
【スーダン/途中の駅】

 駅に停まるたび、しばらく時間があった。たいてい小一時間は停まっていた。

 そんなとき、僕とハヤシくんは決まって外に飛び出した。身体を伸ばせる貴重な時間だ。二等車の二人に話を聞けば、車内がコンパートメント型で区切られている分、自分の専有面積は確保ができるそうだが、座席のボロさや砂埃が吹き込んできて砂まみれになるという状況には変わりがないようだった。

 太陽が昇っている昼の間はそれでもまだよかった。睡眠不足が頂点に達する二泊目の夜は、またも寝つけず、いっそうの地獄列車となった。

出発から11416キロ(40000キロまで、あと28584キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
20 ギリシア アテネ市内
8000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
14 レバノン バスにて入国(ベイルート)
25 ヨルダン 自転車にて入国(アンマン)
30 イラク ツアーにて入国(バグダッド)
2002 01 01 バグダッドにて年越し
08 イスラエル バスにて入国(エルサレム)
13 ヨルダン バスにて再々入国(アンマン)
18 ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)

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