★ふねしゅーの【旅】を極めるサイト★

タイトルロゴ



自転車世界一周の旅/第53話 ヌビア人の町アスワンより、週一便の国際船で


 ルクソールから列車で四時間。北回帰線まで間近というアスワンに着いた。太陽の位置はカイロのときに比べて明らかに高く、Tシャツ一枚でも充分という暑さだった。

エジプト/アスワンの町
【エジプト/アスワンの町】

 参ったのは宿のベッドで南京虫に咬まれたことだった。噂には聞いていたが、ダニに喰われるのとは比較にならないくらい痒い。

「南京虫の三点喰いっていうらしいですよ」

 咬み痕を見てニシムラさんが教えてくれた。

 アスワンまで南下してくると、同じエジプトといっても、少々雰囲気が異なる。暑さのためだけではなく、色黒のヌビア人が多いためだ。ヌビア人はエジプト南部からスーダン北部にかけて暮らす人々であり、独自の文化習俗を残しているのだ。

 僕たちは宿で偶然、ヌビアの人々を取材に来たのだという日本人の女性に出会い、彼女に誘われて、ヌビア人の夕食の席に招かれた。

 場所はナイル川に浮かぶフルーカと呼ばれる小さな船。かつては水運による交易の担い手であり、今は観光用として用いられる白い帆掛け船である。トマトやジャガイモを煮込んだヌビア料理は美味しく、最初はあとで料金を請求されたら嫌だなと心配もしていたのだが、それは全くの杞憂だった。宴は夜の十時近くまで続き、気がついたときには彼らと一緒になって、船の上で踊っていた。

エジプト/ヌビア人の船フルーカにて
【エジプト/ヌビア人の船フルーカにて】

エジプト/ヌビア人の船フルーカにて
【エジプト/ヌビア人の船フルーカにて】

 そんなアスワン発の見所として有名なのは、南に三百キロ離れたアブシンベル神殿。早朝発、日帰りのツアーバスで訪れた。

 ナセル湖に沿って建つ神殿は、新王国時代に絶頂を誇ったラムセス二世によって建設され、正面に高さ二十メートルの巨像が並んでいる姿は圧巻だった。面白いのは四体の坐像いずれもがラムセス二世自身であるということであり、彼が相当な自分大好きな王様であったことが窺い知れた。

 また、実はこの大神殿、アスワンハイダム建設の際に、危うく湖底に沈んでしまうところだったという。ユネスコの大工事によって現在の位置に移設されたのだが、その際石材を切り出した跡が岩盤に残されていた。このときの遺跡保護運動が、のちの世界遺産創設の契機になったのだといわれている。

エジプト/アブシンベル神殿
【エジプト/アブシンベル神殿】

「次はどちらへ?」

 現地で出会った日本人学生との立ち話。「スーダンへ」と答えた僕に、彼らはきょとんとした表情になって、こう言った。

「スーダン? それってどこですか?」

 思わず絶句する僕たち。アスワンやアブシンベルまで来たなら、もうほんのわずかだけ南へ下ればスーダンなのに。

エジプト/イシス(フィラエ)神殿
【エジプト/イシス(フィラエ)神殿】

*   *   *

 エジプト・アラブ共和国
(Arab Republic of Egypt)
 スーダン共和国
(The Republic of the Sudan)

エジプト/アスワンからハイダムへの鉄道
【エジプト/アスワンからハイダムへの鉄道】

 二月四日、アスワンハイダムへ。

 ナイル川を堰き止めて造られたナセル湖の畔が、港になっていた。小さな船と、不釣り合いなくらいに大きなターミナルビル。税関や出国手続きに並ぶ人々と、それ以上にたくさんの積荷。週に一便の国際貨客船は、このアスワンハイダムから出航する。

 エジプトの出国手続きを済ませた僕らは、荷物を抱えてその小さな船に乗り込んだ。自転車は甲板に置き、船室に向かう。

 はじめはいたって空いていた船内だが、やがてひっきりなしに荷物が運び込まれてきた。トランクや鞄といった一般的な手荷物もあるが、大多数は、箱入りの食料品だったり、洗面器やバケツのような生活資材の束だったり、何が詰まっているのか三十キロはありそうな巨大な麻袋だったりする。エジプトで仕入れた品をスーダンで売りさばく、運び屋たちの船になっていた。

エジプト/アスワンハイダムの港
【エジプト/アスワンハイダムの港】

 スーダンの入国手続きが船内で行われた。

 そのとき、僕はジュノンやハヤシくんと列に並び、後ろに白人の旅行者がいた。ジュノンが差し出した書類に対し、黒人の係官がなにやら言った。うまく聞き取れずに彼が戸惑っていると、係官は面倒臭そうに手を振り、お前は後回しだと言わんばかりに後ろの白人を呼んだ。

「ふざけんな!」

 僕はとっさに怒鳴った。

「俺たちが先じゃないか!」と食ってかかった。

 僕の態度に気おされたのか、黒人の係員は、「だって英語がよく通じないから……」とこぼしながら、僕らのパスポートにポンポンポンと入国印をくれた。僕はひったくるようにして、自分のパスポートを机上から取った。

「あいつら、いまだ植民地根性がねじ曲がってるんですよ」

 ハヤシくんが僕の態度に賛同するように、そう息巻いた。

エジプト/エジプト→スーダン/ナイル川を遡行
【エジプト/エジプト→スーダン/ナイル川を遡行】

 午後一時発と聞いていたが、出港時刻は当然のように遅れ、日もとうに落ちた夜の九時半、船はようやく動き始めた。客室も甲板も物資で埋め尽くされ、大人たちの喋り声と、ラジカセの音楽が騒がしい。隣の座席で幼い少女が、真っ白な歯を見せて笑っていた。

 アフリカが始まった……。

エジプト地図

出発から11413キロ(40000キロまで、あと28587キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
20 ギリシア アテネ市内
8000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
14 レバノン バスにて入国(ベイルート)
25 ヨルダン 自転車にて入国(アンマン)
30 イラク ツアーにて入国(バグダッド)
2002 01 01 バグダッドにて年越し
07 ヨルダン ツアーにて再入国(アンマン)
08 イスラエル バスにて入国(エルサレム)
13 ヨルダン バスにて再々入国(アンマン)
18 ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)

第52話 エジプトはナイルの賜物、ファラオの墓は危険な香り <<

>> 第54話 黄砂の国、地獄列車二泊三日の旅



たびえもん

旅のチカラでみんなの夢をかなえる会社です

TEL:03-6914-8575
10時~17時半(日祝休)
https://tabiiku.org/

たびえもんロゴ

お問い合わせや旅行のご相談は、(株)たびえもんのサイトにて受付いたします。

素顔ジャパンプロジェクト

いつまでマスク? なぜ顔を隠し続けるの? みんなの笑顔が見える社会を取り戻そう

海外旅行で子供は育つ!

↓本を出しました↓

★全国の書店で、発売中★