自転車世界一周の旅/第52話 エジプトはナイルの賜物、ファラオの墓は危険な香り
「エジプトはナイルの賜物である」という格言があるが、現代の首都カイロも、世界最長のナイル川に沿って市域が広がっている。
エジプト・アラブ共和国 (Arab Republic of Egypt) |
【エジプト/オールドカイロ、コプト教徒地区】
古くから栄えたのは、その名もオールドカイロ地区。キリスト単性論を唱え、異端とされた原始キリスト教の一派、コプト教徒が多く暮らしている。周囲の路地は狭く入り組んでおり、治安の悪さこそ感じないが、裸足でボロをまとった子供の姿が目立ち、貧民層が多いようにも見えた。
オールドカイロから北東、ナイル川から少し離れた一帯は、イスラム地区と呼ばれている。多くのモスクや神学校、サラディンの築いた城郭シタデルなど、中世の名跡に溢れ、ファーティマ朝やマムルーク朝など、幾多の王朝の都として繁栄した歴史を窺わせた。
イスラム地区からさらに北へいくと、サファリホテルのある新市街、現在のカイロの心臓部だ。インターネットや写真の現像、日本への郵便など、旅が長くなるに従い、済ませなくてはいけない事務的な用事が多くなるが、なんでも揃っているカイロは、そういった仕事を片付けるのにも最適だった。
【エジプト/イスラム地区】
【エジプト/城砦シタデル】
食事はコシャリ。広いアラブ圏の中でも、エジプトに特有の料理といわれるのが、米とパスタに豆やトマトなどを混ぜて煮込んだコシャリである。嫌いだと断言する旅行者もいたが、お椀一杯で一エジプトポンド程度(約二十八円)という破格がなんとも魅力で、僕は昼食はほとんど毎日コシャリと決めていた。
【エジプト/エジプトの国民食コシャリ】
【エジプト/クフ王のピラミッド】
ピラミッドを訪れたのは四日目。ナイル川を挟んで、西岸のギザである。イラクで一緒だったナオちゃんと、市バスに乗って訪れたのだが、ビルが建ち並ぶ平凡な景色の中、突然山のような三角形が出現して驚かされた。
金曜日のためか、地元エジプト人の家族連れがとても多い。敷物しいて弁当広げて、まるでピクニックのための広場になっていた。
【エジプト/スフィンクス】
【エジプト/ギザの三大ピラミッド】
クフ王、カフラー王、メンカウラー王の三つのピラミッド、そしてスフィンクスを眺めながら日没まで時間をつぶしていると、小学生くらいの絵葉書売りの少女が、入れ替わり立ち代わりやって来た。西洋人の老夫婦などが歩いていくると、「あの人たちの方がお金持ってるよ」とけしかけるのだが、売れても売れなくても、なぜかまた笑顔で僕らのところに戻ってきた。肌の色が近い僕らのほうが、親しみやすいのだろうか。
また、イラクで買ったカフィーヤを頭に巻いていると、地元のおじさんたちにすこぶる好評だった。
【エジプト/サッカーラの階段ピラミッド】
【エジプト/メンフィスの遺跡】
【エジプト/ダフシュール、赤のピラミッド近郊】
カイロから南。この国の見所は、やはりナイルに沿った狭い帯状の地域に集積している。しかし、残念なことにナイル川流域はたびたび武装ゲリラが出没し、外国人が狙われやすいことで知られていた。そのため、自転車やバイクによる自由な旅行は禁止されており、僕もまた鉄道を使わざるをえなかった。
同行は、ダマスカス以来の縁であるハヤシくん、神戸出身で自称ものすごく運の悪い男ニシムラさん、そして僕と同じチャリダー、アフリカスタートで世界一周を狙う通称ジュノンことサトウくんの三人だった。
【エジプト/カイロ、ラムセス中央駅】
カイロをあとにして、まず僕たちが向かったのは、列車で約十時間、中流域のルクソールである。カイロと並ぶ一大観光地であり、駅を降りるや否や、待ち構えていたように大勢の客引きが集まってきた。ホテルや旅行会社の売り込みをしてくるのだが、紹介した旅行者の数だけ、あるいは吹っかけた金額の分だけ、報酬を貰えることになっているのだろう。そのしつこさには定評があった。
僕たちは客引きを振り切り、元から予定していた宿に泊まったが、同じ宿にはイギリス人のチャリダーがいた。彼は果敢にもナイル沿いの道を走ろうとしたのだと言い、「ポリスがやって来て護送されたよ」と笑っていた。
【エジプト/ルクソール、王家の谷への道】
【エジプト/ラムセス三世葬祭殿】
翌日、中王国時代の都テーベとして栄えたルクソールを観光する。一九九七年にテロ乱射事件が発生したハトシェプスト女王葬祭殿、代々のファラオたちが眠る王家の谷、ラムセス三世葬祭殿、そして巨大な柱群が残るカルナック神殿など、見所にはこと欠かない。
僕たちは自転車で回ったが、いずれの遺跡も大型バスによる団体客が多く、テロ事件は過去の話という賑わいだった。背中がまるっきり開いた、ほとんど水着のような服装の若い白人姉ちゃんがいて、土産物屋の兄ちゃんが「なんてデンジャラスなんだ!」と喜んでいた。
「あんな奴がいるから、外国人狙いのテロが起きるんですよ」
ハヤシくんの言葉に、思わず「そうだ!」とうなずく僕らであった。
【エジプト/ルクソール、ハトシェプスト女王葬祭殿】
【エジプト/カルナック神殿】
出発から11412キロ(40000キロまで、あと28588キロ)
年 | 月 | 日 | 国 | できごと | 距離 |
2001 | 05 | 26 | アメリカ | 旅立ち 空路アラスカへ | |
08 | 05 | メキシコ | トゥーラ手前 | 5000 |
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09 | 04 | グアテマラ | 強盗事件発生 自転車を失う | 6940 |
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10 | 04 | イタリア | パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ) | ||
20 | ギリシア | アテネ市内 | 8000 |
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11 | 11 | トルコ | イスタンブール手前 | 10000 |
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14 | W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る | ||||
12 | 03 | シリア | 自転車にて入国(アレッポ) | ||
14 | レバノン | バスにて入国(ベイルート) | |||
25 | ヨルダン | 自転車にて入国(アンマン) | |||
30 | イラク | ツアーにて入国(バグダッド) | |||
2002 | 01 | 01 | バグダッドにて年越し | ||
07 | ヨルダン | ツアーにて再入国(アンマン) | |||
08 | イスラエル | バスにて入国(エルサレム) | |||
13 | ヨルダン | バスにて再々入国(アンマン) | |||
18 | ペトラ先ラジフ | 11000 |
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20 | エジプト | 船にて入国(ヌエバ) |