★ふねしゅーの【旅】を極めるサイト★

タイトルロゴ



自転車世界一周の旅/第2話 デナリ~自然の雄大さと広大な静けさ


 五月三十一日、予定通りアンカレジから三日で、デナリ国立公園の入口に着いた。

アラスカ/デナリへ向かう途中のキャンプ場
【アラスカ/デナリへ向かう途中のキャンプ場】

 幹線道路から分かれて坂を上った先にビジターセンターがあり、基本的に全ての観光客はここでの手続が必要になっている。デナリは日本の上高地みたいに一般車の乗り入れが制限されており、シャトルバスあるいはキャンプ場などの予約も全てここが窓口だった。

 極北の地に位置するデナリでは五月下旬から九月中旬までの夏の間しかシャトルバスが運行せず、かつ五月末の時点では、七つあるキャンプ場のうち奥の二つが営業をしていなかった。そこで奥から三つめのテクラニカリバーキャンプ場を二泊予約した。

「昨日自転車に乗っていたクレージーガイはお前か」

 一人のおじさんが僕に話しかけてきた。自転車で走っている僕を、車から見かけたらしい。どこまで行くのだと問われ、とりあえずカナダと答えた。

アラスカ/デナリ国立公園入口
【アラスカ/デナリ国立公園入口】

アラスカ/テクラニカリバーのキャンプ場
【アラスカ/テクラニカリバーのキャンプ場】

 初めのうちは急勾配が続いた。あるところで森林に覆われていた景色から木々が消え、急に見晴らしが良くなった。これが森林限界、タイガとツンドラの境界線なのだろう。

 入口から十四・八マイル地点のサベージリバー検問所で、キャンプ場の予約証を呈示する。一般車はここまでしか入れないが、自転車はこの先も通行が可能だ。未舗装の砂利道が始まり、景色は一段と野性味を増した。

 赤茶けた丘が延々と続き、遠くには白い山並みが連なって見える。残雪が多く、まだ春になっていない寒々とした眺望だ。残念ながら、デナリの姿は雲に隠れて見えない。

 くねくねと縫うように走る一本道には、わりと頻繁にバスが通る。バスの運転手の二人に一人は手を挙げて挨拶をしてくれた。

アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道
【アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道】

アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道
【アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道】

 テクラニカリバーキャンプ場は、入口から二十九・一マイル地点。標高は二千五百八十フィートと書かれているから、八百メートル弱か。吹き抜ける風は冷たく、テントを張っている人はまばらだった。

 キャンピングコンロで米を炊き、野菜を刻んで煮込む。食べ物は多めに買い込んであるが、テントに入れておくことは許されない。その匂いを嗅ぎつけ、野生動物が狙ってくるからであり、専用のフードロッカーにしまうことがキャンプ場の利用条件になっていた。

 日没は深夜になる。まだ明るい時間にテントに入るのは妙な気分だが、横になり目を閉じると、やがてまどろみが襲ってきた。夜間の冷え込みは強烈なため、防寒着として合羽の上下を着込み、寝袋の口をきっちりと閉めて眠る。それでも朝方、寒さのため目覚めてしまうことが何度かあった。

*   *   *

 明くる六月一日、僕は荷物をキャンプ場に置きっ放しにして、六十六マイル地点のアイルソンビジターセンターを目指す。サイドバッグがないとハンドルが軽い。天候も昨日に比べると良さそうだ。僕は大いに期待してペダルをこいだ。

 と、デナリが見えた!

 灰褐色の荒涼とした地平の彼方、低い山は茶色く、少し高い山はところどころ白く、もう少し高い山は白地に黒い岩肌が目立つ。さらに奥にそびえ立つデナリはほぼ完璧に真っ白だった。

 デナリの姿が見え隠れしながら砂利道は続く。白い羊ドールシープや北極リスの姿を見かける。幸か不幸か熊には遭わない。

アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道
【アラスカ/デナリ国立公園内の砂利道】

アラスカ/遠くに北米最高峰デナリを望む
【アラスカ/遠くに北米最高峰デナリを望む】

 正午を過ぎて、アイルソンビジターセンターに到着した。ここからデナリまでは五十三キロ。展望台に立つと、雲の中から白い山頂が見えた。東京から見える富士山よりもずっと近く見えるのは、遮るものがないからだろうか。あるいは、やはりそれだけ大きいのだろうか。

 ビジターセンターの内外は多くの観光客で賑わっていた。カメラを片手に、あるいは双眼鏡を構えて、大地を見つめる人々。これから暖かくなり、繁忙期が到来すると、たぶんもっと混むのだろう。

 センターの中にはデナリにまつわる様々なデータが展示してあり、最初の単独登頂者として植村直己の名前もあった。一九九三年から九九年までの間、登頂を試みた二万人あまりの人数に対し、成功した人は約半数であるという数字が示されていた。その中には、命を落とした人も、決して少なくはないのだろう。

 標高六千百九十四メートル。かつてマッキンリーと呼ばれた北米最高峰は、赤茶けたツンドラの大地の向こうで純白に輝いていた。

 ビジターセンターをあとにし、僕は自転車にまたがって坂道を下る。

 あと半月もすれば、新緑の春を迎え、色とりどりの草花を愛でることができたのかもしれない。しかし僕は、まだ観光客も少ない、自然の雄大さが直に感じられる、その広大な静けさを気に入った。

 この旅に出てよかったと、まず思った。

アラスカ/ネナナの町のキャンプ場
【アラスカ/ネナナの町のキャンプ場】

アラスカ/デナリからフェアバンクスへの道
【アラスカ/デナリからフェアバンクスへの道】

出発から591キロ(40000キロまで、あと39409キロ)

できごと 距離
2001 05 26 日本 旅立ち 空路アラスカへ
27 アメリカ アンカレジにて自転車購入
0
31 デナリ国立公園を走る

第1話  四万キロを目指してアンカレジを発つ <<

>> 第3話 デナリ~自然の雄大さと広大な静けさ



たびえもん

旅のチカラでみんなの夢をかなえる会社です

TEL:03-6914-8575
10時~17時半(日祝休)
https://tabiiku.org/

たびえもんロゴ

お問い合わせや旅行のご相談は、(株)たびえもんのサイトにて受付いたします。

素顔ジャパンプロジェクト

いつまでマスク? なぜ顔を隠し続けるの? みんなの笑顔が見える社会を取り戻そう

海外旅行で子供は育つ!

↓本を出しました↓

★全国の書店で、発売中★